松村真宏の略歴
松村真宏(まつむら・なおひろ、1975年~)
仕掛学系の研究者。大学教授。
大阪府の生まれ。大阪大学基礎工学部を卒業。東京大学大学院工学系研究科を修了し博士号を取得。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校やスタンフォード大学で客員研究員など。
『仕掛学』の目次
世界は「仕掛け」にあふれている
序章 「ついしたくなる」には仕掛けがある
天王寺動物園の筒
行動で問題を解決する
思わず整理整頓したくなる方法
人の行動を変える奥義
狙いたくる便器の的
良い仕掛けと悪い仕掛け
仕掛けを定義する3つの要件
仕掛けが活躍する場所
1章 仕掛けの基本
行動の選択肢を増やす
行動を上手に誘導する
結果的に問題を解決する
強い仕掛けと弱い仕掛け
インパクトはいずれも薄れる
行動中心アプローチ
仕掛けもどきに注意
正論が効かないときの処方箋
2章 仕掛けの仕組み
仕掛けの原理
仕掛けの構成要素
[大分類]物理的トリガ/心理的トリガ
[中分類]フィードバック
[小分類]聴覚/触覚/嗅覚/味覚/視覚
[中分類]フィードフォワード
[小分類]アナロジー/アフォーダンス
[中分類]個人的文脈
[小分類]挑戦/不協和/ネガティブな期待/ポジティブな期待/報酬/自己承認
[中分類]社会的文脈
[小分類]被視感/社会規範/社会的証明
トリガの組み合わせ
3章 仕掛けの発想法
仕掛けを見つける方法
要素の列挙と組み合わせ
仕掛け事例を転用する
行動の類似性を利用する
仕掛けの原理を利用する
オズボーンのチェックリスト
一方ロシアは鉛筆を使った
考案した仕掛けの例おわりに
参考文献
写真クレジット
『仕掛学』の概要
2016年10月5日に第一刷が発行。東洋経済新報社。173ページ。ハードカバー。128mm✕182mm。B6判。
副題は、”人を動かすアイデアのつくり方”。仕掛けを利用して、身近な悩みから社会問題を解決する仕掛学。人を動かすためのアイデアなどを写真と共に解説していく内容の本。
大きく序章、1章、2章、3章という4つの構成。
最初の“世界は「仕掛け」にあふれている”では、4枚のカラー写真で、実際の仕掛けの取り組みを分かりやすく紹介。
学者の書かれた文章で、ポップな雰囲気ではないが、とてもピースフルな感じに加えて、ロジカルで読みやすいのが特徴。
ページ数も少ないので、あっさりと読めるが、それぞれ深い考察が詰まっている。
『仕掛学』の感想
人の行動を変えるという仕掛けに興味を持って購入。
ある種の行動経済学や認知心理学、認知バイアスの活用的な内容である。
実際にページ数は少なくて、あっさりと読み切ってしまう本ではあるが、面白いし、深掘りしていくと勉強になる。
著者自体としては、学会がないために学術的貢献の発表の場がないということから、別の方向性を検討。
社会的貢献のために、出版という形で公表しているというもの。
2章の大分類、中分類、小分類のそれぞれのところは、右下に、該当の階層図が書かれていたので、非常に確認しやすく良かった。
学者が書いた本なので、馴染みのない言葉も出てきたが、総じて読みやすくて分かりやすかった。論理がしっかりとしているからかもしれない。
以下、引用などをしながら解説。
この『仕掛学』では、問題解決につながる行動を誘うキッカケとなるものの内、FAD要件を全て満たすものを“仕掛け”と定義。
そのFAD要件というのが以下。
・公平性(Fairness):誰も不利益を被らない。
・誘引性(Attractiveness):行動が誘われる。
・目的の二重性(Duality of purpose):仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる(P.36:序章 「ついしたくなる」には仕掛けがある)
Fairness、Attractiveness、Duality of purposeのそれぞれの頭文字を利用して、FAD要件としている。
仕掛けを明確に定義。しかも、何だかとても平和というか正義的な感じ。不利益を被る人はいない。
あとは、目的の二重性もポイント。
分かりやすく言うと、仕掛ける側は、ある問題を解決するために、人を動かしたいという理由や目的がある。
仕掛けられる側は、楽しいからなど、といった自発的な理由、もしくは楽しくなりたいという目的で、行動をする。
ゲーミフィケーション分野では上達できる、適度な難易度に設定されている、他の人に認められる、射幸心があおられるといった要素があると飽きにくくなることが知られており、仕掛けの飽きやすさを考える際にも参考になる。(P.68:1章 仕掛けの基本)
ゲーミフィケーション(Gamification)とは、遊びや競争など、人を楽しませて熱中させるゲームの要素を、ゲームが本来の目的ではないサービスやシステムに応用し、ユーザーのモチベーションやロイヤルティーの向上に資する取り組み。
マーケティングの手法のひとつ。
スーパーやコンビニ、ドラッグストアといった買い物やサービス関連のポイント制度やランク制度。
スポーツ関連や計測機器、ダイエット関連サービスの企業と、運動量や消費カロリーの計測アプリケーション。
その他に、社会活動などにも応用される。
ゲーム理論などもある。結局のところ、ゲームというのは人間の本能的な部分を刺激して楽しませる、ということか。
アフォーダンスは見ただけで使い方がわかる「物の特徴」のことである。これだけではアナロジーと区別がつきにくいが、「事前知識がなくても」という条件下でも伝わる特徴のことである。(P.105:2章 仕掛けの仕組み)
さらに注釈で、ジェームス・ギブソン(James Jerome Gibson、1904年~1979年)が用いたものではなく、ドン・ノーマン(Don Norman、1935年~)が用いた知覚されたアフォーダンスの意味で用いていると書かれている。
ジェームス・ギブソンの方は、動物と物の間に存在する行為の関係性を表す言葉。
ドン・ノーマンの方が限定的な意味合いであり、シグニファイア(signifier)という言葉が用いられることも。
ただ、一般的にアフォーダンスという言葉が使われる場合、著者と同様にドン・ノーマンの方の意味で用いられることが多い。
アナロジーは事前知識がある。
ゴミ捨て場に小さな鳥居を設置して、ゴミを捨てるとバチが当たるかも。トイレの的も、的は当てるものという知識。
アフォーダンスは、天王寺動物園の覗くのにちょうどいい位置の高さにある筒の穴。
でも、望遠鏡のように筒が見えるのは、アナロジーとなる。
この辺りは、写真を見ながら確認すると分かりやすい。
アイデア発想につまったときは視点を切り替えるのが良い。そのときによく使われるのが以下の9カ条からなるオズボーンのチェックリストである。
1.他の使い道は?(Put to other uses?)
2.他に似たものは?(Adapt?)
3.変えてみたら?(Modify?)
4.大きくしてみたら?(Magnify?)
5.小さくしてみたら?(Minify?)
6.他のもので代用したら?(Substitute?)
7.入れ替えてみたら?(Rearrange?)
8.逆にしてみたら?(Reverse?)
9.組み合わせてみたら?(Combine?)
(P.156:3章 仕掛けの発想法)
オズボーンのチェックリストとは、ブレーンストーミングの考案者として有名なA・F・オズボーンによる発散発想技法。
アイディアが浮かばない際に、発想する切り口として利用する為のリスト。
日本語で短くすると、上から転用、応用、変更、拡大、縮小、代用、置換、逆転、結合。
A・F・オズボーン(Alexander Faickney Osborn、1888年~1966年)は、アメリカの実業家。広告会社で成功した人物。
これは取り立てて、仕掛学の話ではなく、活用できるチェックリストである。
オズボーンのチェックリストは知らなかったので勉強になった。何らかの日常生活に役立てたいところ。
著者の遊び心というか、研究の楽しさも感じられる内容で、とても面白く読み終えることができた。
ビジネスや家庭、育児、社会問題などにも、応用できそうなアイデアや実例が豊富。
人を動かすためのアイデアが必要なビジネスマンや主婦、学生をはじめ、幅広い人々にオススメの本である。
活字よりマンガの方が読みやすいという人には同じ著者の『人を動かす「仕掛け」 あなたはもうシカケにかかっている』がオススメかも。
書籍紹介
関連書籍
関連スポット
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(The University of Illinois at Urbana–Champaign、UIUC)は、アメリカのイリノイ州にある1868年に設立の州立大学。
公式サイト:イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校
スタンフォード大学
スタンフォード大学(Stanford University)は、カリフォルニア州に本部を置く1891年に設立の私立大学。正式名称は、リーランド・スタンフォード・ジュニア大学(Leland Stanford Junior University)。
公式サイト:スタンフォード大学