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今村翔吾『作家で食っていく方法』要約・感想

今村翔吾『作家で食っていく方法』表紙

書籍紹介

  1. インプットと人間関係が基盤:圧倒的な読書量が創作の源泉であり、出版業界は共同作業のため対人スキルが売れる作家の必須条件。
  2. ビジネス視点でキャリア設計:出版社選びは生存率で判断し、年3冊の生産ペースを守ることで流通システムを味方につけ、多様な収入源の相場を把握。
  3. 実践的な執筆術と効率化:キャラクターは最小設定で余白を残し、三人称一視点で書き、調査は「3日・5冊」に制限することで生産性を最大化。
  4. 持続可能な戦略と継続力:地域密着広告や定量的な自己管理で基盤を固め、3年先を見据えたアジャイル思考で挑み、継続することが重要。

今村翔吾の略歴・経歴

今村翔吾(いまむら・しょうご、1984年~)
小説家、書店経営者。
京都府木津川市の出身。奈良女子大学附属中等教育学校、関西大学文学部を卒業。
ダンスインストラクター、作曲家、滋賀県守山市の埋蔵文化財調査員を経て、専業作家に。
2020年に『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞と、第8回野村胡堂文学賞を受賞。『じんかん』で第11回山田風太郎賞を受賞。
2022年に『塞王の楯』で第166回直木賞を受賞。

『作家で食っていく方法』の目次

はじめに
第一章 作家になる方法
第二章 作家で食っていく方法
第三章 売れる小説を書く方法
第四章 これから生き残る方法
おわりに

『作家で食っていく方法』の概要・内容

2026年1月26日に第一刷が発行。SB新書。213ページ。

帯には「億を稼ぐ直木賞作家、人生が変わる仕事論」とも書かれている。

『作家で食っていく方法』の要約・感想

  • 圧倒的な情報の蓄積が創造の源泉となる
  • 孤高の天才という幻想と対人スキルの重要性
  • 持続可能なキャリアを築くための環境選び
  • 生産能力と流通システムが交差する損益分岐点
  • 多様化する収入源と現実的な相場の把握
  • 不確実な未来に対するアジャイルな目標設定
  • 余白を残すことでキャラクターは躍動する
  • 読者を物語の深淵へ導く視点の技術
  • 制約を設けることで高まる調査の効率と質
  • 地域密着型の戦略が生み出す強固な地盤
  • 定量的なデータに基づいた自己管理の徹底
  • まとめ:継続する力こそが最大の才能である

世の中には数多くの職業が存在するが、その中でも特に実態が掴みにくいのが、文章を書くことを生業とする人々である。

華やかな世界に見える一方で、才能だけで生き残れるほど甘い世界ではないという厳しい現実も存在している。

今村翔吾(いまむら・しょうご、1984年~)が著した『作家で食っていく方法』は、夢物語ではなく、極めて現実的で実践的な生存戦略を描いた一冊である。

彼はダンスインストラクターや作曲家、埋蔵文化財調査員といった多彩な経歴を持ち、のちに直木賞を受賞するに至った稀有な人物である。

文学という芸術の領域にあえてビジネス的なメスを入れ、いかにして利益を生み出し、継続的に活動していくかを明かしている点がこの書籍の最大の魅力である。

これから自らの腕で生計を立てることを目指す者にとって、本書に記された具体的な数字や手法は、羅針盤のような役割を果たすだろう。

芸術活動と経済活動を両立させるための緻密な計算と、それを実行に移すための胆力について、本書の言葉を引きながら深く考察していきたい。

圧倒的な情報の蓄積が創造の源泉となる

何かを創り出す仕事においては、ゼロから全く新しいものを生み出しているように錯覚しがちである。

しかし、すべてのアウトプットは、過去に入力されたデータの組み合わせと再構築に過ぎない。

文章を書くという行為においても、土台となるのは圧倒的な情報の蓄積である。

必要なことはたった一つ。読書量です。多読、乱読、とにかく数を読む。浴びるほど読んでください。(P.19「第一章 作家になる方法」)

歴史小説の分野で第一線を走り続ける今村翔吾自身が、トップクラスの読書量を誇っているという事実は、この言葉の重みを裏付けている。

彼が別の著書で、経済小説の第一人者である城山三郎(しろやま・さぶろう、1927年~2007年)の作品についてまで深く言及しているのを知った時、私はその知見の広さに驚愕した。

ちなみに、城山三郎は経済小説で有名であるが、歴史小説も手掛けているのである。

インプットの量が枯渇すれば、出力される作品の質も必然的に低下していく。

私自身も、さらに多くの活字に触れ、知識の貯水池を満たしていかなければならないと強く痛感した。

孤高の天才という幻想と対人スキルの重要性

文章を書く仕事と聞くと、外界との接触を断ち、部屋に籠もって一人で孤独に作業を進める姿を想像するかもしれない。

人付き合いが苦手だからこそ、組織に属さず、ペン一本で生きていく道を選ぶのだという固定観念を持つ人も多いだろう。

しかし、現実の出版業界は、多くの人間が関わる巨大な共同プロジェクトの場である。

会社員としてのコミュニケーションを苦にして作家を目指す人にとっては残念なお知らせですが、売れている作家ほどコミュニケーション能力が高い印象です。作家の世界も他のビジネスと変わらないのです。(P.25「第一章 作家になる方法」)

一つの作品が世に出るまでには、編集者との度重なる打ち合わせがあり、営業担当者や書店の販売員との連携が不可欠である。

自らの意図を正確に伝え、相手の意見を柔軟に受け入れ、時には交渉して妥協点を見出す能力が求められる。

どのような環境であれ、どのような専門領域であれ、円滑な人間関係を築く力は極めて重要である。

組織で働く人々が日常的に駆使している調整能力や対人スキルは、独立して活動する際にも強力な武器となるのである。

他者との関わりを避けるための逃げ道としてこの職業を選ぶと、後々大きな壁にぶつかることになるという厳しい警告であると受け取るべきである。

持続可能なキャリアを築くための環境選び

作品を世に問うためには、賞を受賞することが目的化してしまいがちである。

しかし、賞を取ることはあくまでスタートラインに立つことであり、本当に重要なのはその後に継続して活動できるかどうかである。

自らの商品を流通させるためのプラットフォーム、すなわち出版社選びは、事業の成否を分ける致命的な要素となる。

具体的には、デビュー直後の作家に連載や短編掲載の機会が与えられているか。また、そもそも自分が書きたいと思っているジャンルに精力的に取り組んでいる出版社か。(P.33「第一章 作家になる方法」)

賞賛を得ることだけを目標にするのではなく、新人に対してどのような投資を行い、どのように育成していく方針を持っている組織なのかを冷静に見極める必要がある。

過去にデビューした人々が現在も生き残って活動を続けているかという生存率は、その組織の支援体制の充実度を測る重要な指標となる。

自らが書きたいと願う分野に対して、その出版社が市場を開拓する意志を持っているかどうかも確認しなければならない。

賞の選考委員の好みに合わせた対策を練るのではなく、長期的な視点で共に歩んでいけるビジネスパートナーとしての出版社を探すための対策を練るべきなのである。

目先の栄誉に囚われず、持続可能なキャリアを描くための戦略的思考が求められている。

生産能力と流通システムが交差する損益分岐点

自らの腕一本で生計を立てるためには、安定した収入源を確保しなければならない。

経済的な自立を達成するための具体的な生産目標として、本書では明確な数字が提示されている。

年に3冊書ければ、あなたは作家で食っていける可能性が高い。年3冊書ける新人は、ゴールデンエースとして出版社に重宝されるでしょう。(P.37「第一章 作家になる方法」)

金銭的な事情から計算しても、年間で3冊という生産ペースが、一つの損益分岐点になっているという話は非常に興味深い。

しかし、この数字には単なる個人の生産能力だけでなく、日本の出版業界特有の流通システムが深く関わっている。

書店における本の販売は、多くの場合、委託販売制度という仕組みの上で成り立っている。

書店は売れ残った本を一定期間内であれば出版社に返品することができるため、店頭の棚の構成は常に流動的である。

返品の期限はおおよそ6カ月以内とされており、4カ月に1冊のペースで新作を世に送り出せば、前の本が返品される前に新しい本が店頭に並ぶことになる。

この絶妙な周期により、新旧の作品が同時に店頭に並ぶ併売の可能性が高まり、読者の目に触れる機会が飛躍的に増加する仕組みなのである。

流通の力学を完全に理解し、それに適合した生産体制を構築できる新人こそが、組織から重宝される人材となるのは当然の理屈である。

芸術的な創造力だけでなく、サプライチェーンを意識した生産管理能力が不可欠なのだ。

多様化する収入源と現実的な相場の把握

現代において、文字の表現形態は紙の書籍だけにとどまらず、電子媒体や映像など、多岐にわたっている。

それに伴い、収入の形も複雑化しており、自らの作品がどのように利益を生み出すのかを正確に把握しておく必要がある。

本書の優れた点は、外部からはうかがい知れない印税や報酬の具体的な相場を惜しげもなく公開している点にある。

紙よりも歴史が浅いからか、電子の印税率はバラツキが大きいです。相場は一般文芸だと現在、35パーセントくらいでしょうか。(P.67「第二章 作家で食っていく方法」)

この情報を補足すると、本書の編集者からの情報によれば、実用的な内容や自己啓発の分野では相場が25パーセント前後になるという。

さらに学術的な内容や教養を深めるための書籍となると、その割合はより低くなる傾向にあり、本書自体も20パーセントの設定であるとの話がある。

このような業界の基準や内情を隠すことなく開陳してくれる姿勢は、これから道を志す者にとって非常に誠実でありがたいものである。

また、文字の作品が映像化された場合の経済効果についても具体的な数字が挙げられている。

ドラマなら1話が10万~50万円で、ワンクールで総額200万~300万円の相場。よいもので500万円という話を聞きます。映画(邦画の実写作品)で聞くのは、100万~300万円の相場。よいもので700万円。(P.72「第二章 作家で食っていく方法」)

メディアミックスは大きな夢であるが、それが実際にどの程度の金銭的価値に換算されるのかを知っておくことは、資金計画を立てる上で欠かせない。

幻想を抱くのではなく、確かな数字に基づいて自らの事業を評価する視点を持つことが重要である。

不確実な未来に対するアジャイルな目標設定

事業を起こす際、長期的な計画を立てることは一般的に正しいとされるが、変化の激しい現代においてはそれが足枷になることもある。

先行きが不透明な環境下では、遠い未来を緻密に予測するよりも、直近の状況に柔軟に対応していく姿勢が求められる。

今村翔吾は、他の仕事を辞めて文章を書くこと一本に絞るタイミングについて、一つの基準を示している。

10年先は考えなくてよいです。そんな先のことは、誰もわかりません。(P.84「第二章 作家で食っていく方法」)

3年先までの金銭的な見通しが立てば、その時点で専業に切り替えるべきだという考え方である。

専業になれば、執筆に充てる時間と労力を飛躍的に増加させることができ、結果としてより高い次元での勝負が可能になるからだ。

10年後の世界がどうなっているかなど、いかなる経済学者や歴史学者であっても正確に予測することは不可能である。

わからないことに対して無駄に時間を割くのではなく、少し先までの道筋が見えたら、思い切って環境を変える決断力が求められる。

常に3年後という中短期の未来を見据えながら、状況の変化に応じて計画を修正していく、いわゆるアジャイルな思考法がここでも有効に働いている。

リスクを極度に恐れて行動を起こさないこと自体が、最大の機会損失となることを教えてくれる言葉である。

余白を残すことでキャラクターは躍動する

物語を構築する上で、登場人物の造形は作品の成否を分ける極めて重要な要素である。

事前に履歴書のような詳細な設定資料を作り込み、隅々まで性格や生い立ちを決めてから書き始める手法も存在する。

しかし、今村翔吾の手法はそれとは対照的であり、ある種の遊びを持たせた状態から物語をスタートさせている。

私の場合、最低限設定するのは、名前・性別・身長の三つです。名前と性別は当然のこととして、身長を設定するのは、メディアミックスに向けてイメージを作り出すためです。(P.139「第三章 売れる小説を書く方法」)

最初は細部まで絞り込まず、大まかな外枠だけを用意しておくというアプローチである。

物語が進行していく過程で、登場人物が直面する困難や他の人物との対話を通じて、自然と肉付けが行われていくのだという。

最初からすべてを固定してしまうと、想定外の展開に登場人物が対応できなくなり、物語の自由度が失われてしまう危険性がある。

余白を残しておくことで、執筆している本人でさえ予測できなかったような感情の動きや行動が引き出され、結果として人物が生き生きと動き出すのである。

メディアミックスを見据えて身長だけは設定しておくという徹底した実務的な視点と、物語のダイナミズムを信じる芸術的な直感が融合した独自の手法であると言える。

創作者の性格にもよるだろうが、計画と即興のバランスをどう取るかは、あらゆる創造的活動における永遠のテーマである。

読者を物語の深淵へ導く視点の技術

文章を通じて世界を構築する際、誰の目を通してその世界を記述するかという「視点」の選択は、読者の体験を決定的に左右する。

視点には大きく分けて、主人公が「私」として語る一人称と、物語の外部から人物を描写する三人称が存在する。

それぞれの技法には長所と短所があり、目的に応じて最適なものを選択しなければならない。

本書では、これから技術を磨いていく者に対して、明確な推奨がなされている。

つまり、始めやすく、極めにくいのが一人称。始めやすくはないが、極めにくくもないのが三人称。であれば、最初から三人称一視点に慣れるのがよいでしょう。(P.164「第三章 売れる小説を書く方法」)

一人称は自分自身の感情を直接的に吐露できるため、初心者が書き始めるのには適しているように思える。

しかし、主人公が知り得ない情報を読者に伝えることが極めて困難であり、複雑な群像劇などを描く際には大きな制約となってしまう。

一方、三人称の中でも特定の人物の視点に寄り添う「三人称一視点」は、感情の機微を表現しつつも、ある程度の客観性を保つことができる優れた技法である。

最初はこの技法に慣れるまでに苦労するかもしれないが、一度習得してしまえば、多様な物語に対応できる強力な武器となる。

本書の該当部分には具体的な例文も添えられており、理論だけでなく感覚的にも理解しやすい構成になっている。

読者を物語に没入させるための最適解として、三人称一視点の習得を勧めるのは、理にかなった指導である。

制約を設けることで高まる調査の効率と質

史実に基づいた物語を書く場合、その時代の風俗や制度、地理などを正確に把握するための調査活動が不可欠となる。

しかし、知的好奇心に任せて無制限に資料を漁り、各地を巡っていては、肝心の執筆に取り掛かることができない。

プロジェクト管理の観点から見れば、調査という工程に対して明確な期限とリソースの制限を設けることは、全体を予定通りに完了させるために絶対に必要な処置である。

1冊につき、取材は3日、本は5冊、というルールでいかがでしょうか。実際、私も取材は大体3日で済ませています。というよりも、3日で充分です。(P.176「第三章 売れる小説を書く方法」)

一冊の作品を仕上げるための調査期間を3日、参考にする資料を5冊と上限を定めることで、無限に拡大してしまう作業に歯止めをかけているのである。

完璧主義に陥り、あらゆる情報を網羅しようとするのは、生産性を著しく低下させる罠である。

ある程度の割り切りを持ち、本当に必要な情報だけを抽出する決断力が求められているのだ。

もちろん、今村翔吾の場合は、それまでに培ってきた歴史的な知識と圧倒的な読書量という巨大な土台があるからこそ、この短い期間で済んでいるという側面は否定できない。

また、彼は執筆を開始する前にすべてを調査するのではなく、物語の中で重要な場面が近づいてきたタイミングで、スケジュールの隙間を縫って現地に赴くという。

必要な時に必要な情報だけを効率的に取得するジャスト・イン・タイムの思想が、ここにも垣間見える。

地域密着型の戦略が生み出す強固な地盤

作品を書き上げた後、それをいかにして読者に届けるかという宣伝活動も、自立した活動家にとっては重要な業務の一部である。

大手の広告媒体を利用するには莫大な費用がかかり、資金力のない個人にとっては現実的な選択肢とはなり得ない。

そこで、経営戦略におけるニッチ戦略や、地域を限定して影響力を高めるランチェスター戦略のようなアプローチが有効になってくる。

意外とお勧めで、私自身もやっているのが、地元のフリーペーパーへの広告出稿です。費用は大手メディアより控えめですし、地元との繋がりもできてブランディング効果は高いです。(P.190「第四章 これから生き残る方法」)

自らが居住している地域や、作品の舞台となった地域の無料配布誌に広告を掲載するという手法は、非常に理にかなっている。

全国的な知名度を獲得する前に、まずは特定の地域で熱狂的な支持層を形成し、そこを足がかりにしていくという戦略である。

地域密着型の媒体は出稿費用が比較的安価でありながら、住民との心理的な距離が近く、高い費用対効果を見込むことができる。

私自身、この局地戦から始めるという発想は全く頭になかったため、目から鱗が落ちる思いであった。

特にその土地の歴史や文化を題材にした作品であれば、住民の関心を引きつけることは容易であり、強力な口コミの発生源となるだろう。

作品の地域性が薄かったとしても、手頃な価格で認知度を広めることができるため、試してみる価値は十二分にある手法である。

定量的なデータに基づいた自己管理の徹底

品質の高いものを生み出すことは当然の前提であるが、それをどれだけの速度で生み出せるかという点も、プロフェッショナルとしての価値を決定づける。

同じクオリティの作品を提供する人間が二人いた場合、市場は間違いなく、より速く納品できる方を選択し、高く評価する。

執筆の速度というものは、単なる気合や根性ではなく、客観的なデータに基づいた自己分析によって向上させていくものである。

私は秘書を雇うまでは、一日の目標字数と実績字数を自分でExcelにまとめて管理していました。(P.207「第四章 これから生き残る方法」)

具体的な数字は明記されていないが、デビューしてからの3年間は、自らの生産量を日々表計算ソフトに入力し、厳密に記録していたという。

目標に対してどれだけ達成できたのか、どのような条件下で速度が落ちるのかを定量的に把握することで、業務の改善点が見えてくる。

これは製造業の現場で行われている工程管理や、PDCAサイクルと呼ばれる改善の手法と全く同じである。

芸術的な才能と聞くと、ひらめきや感性ばかりが注目されがちであるが、このように速度と量を管理する能力もまた、生き残るための重要な才能の一部なのである。

質と量、そして速度。

これら三つの要素はトレードオフの関係にあるように思われがちだが、一流と呼ばれる人々はこれらを高い次元で両立させている。

ハードボイルド小説の巨匠である大沢在昌(おおさわ・ありまさ、1956年~)も、理系ミステリで知られる森博嗣(もり・ひろし、1957年~)も、そして今村翔吾も、表現は違えど、口を揃えて「まずは圧倒的な量を書け」と説いている。

量をこなすことでしか見えてこない景色があり、到達できない質の領域があるという真理を、先人たちは身をもって証明しているのである。

まとめ:継続する力こそが最大の才能である

ここまで、多角的な視点から『作家で食っていく方法』の内容を読み解き、生存するための戦略について考察してきた。

提示されている手法はどれも論理的であり、読者の理解を助けるための分かりやすい言葉で丁寧に説明されている。

しかし、これらの優れた戦略やノウハウを知ったとしても、それを長期間にわたって実行し続けることができなければ何の意味もない。

結局のところ、最後に勝敗を分けるのは、強靭な肉体と精神力、すなわち体力と気力なのである。

何事においても、一つのことを極めようとすれば、単調な反復作業や孤独な苦労に耐えなければならない時期が必ず訪れる。

それを乗り越えられるのは、その行為自体を心の底から愛しているか、あるいは少なくとも、激しい嫌悪感を抱かずに淡々と継続できる適性を持っている者だけである。

好きで好きでたまらないという熱情も強力な原動力となるが、「嫌いではないから続けられる」という穏やかな持続力もまた、生涯をかけて仕事に取り組む上では重要な資質となる。

いずれにせよ、自らの内側から湧き出るものを文字に変換し、それを継続的に量産していくためには、途切れることのないエネルギーが必要である。

技術や知識は後からでも身につけることができるが、歩みを止めないという意思は、自らの奥底から絞り出すしかない。

本書は、技術的な指南書であると同時に、厳しい現実の世界へ漕ぎ出そうとする者たちの覚悟を問う、熱を帯びた哲学書でもあるのだ。

書籍紹介

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