
- 夢枕獏の創作の原動力は「好き」という情熱と地道な積み重ね。物語の世界観の構築やスランプ克服にも不可欠。
- 魅力的なキャラクターは司馬遼太郎の教えに基づく「人間の典型」を作り、読者の記憶に残る存在を生み出す。
- オリジナル性を重視し、鈴木敏夫の助言のように先人の作品に頼らず「自分の力で飛ぶ」ことが真の創作につながる。
- 継続の秘訣は編集者との信頼関係で、書きたいものを貫きつつ、編集者の判断を委ねて書き続けること。
夢枕獏の略歴・経歴
夢枕獏(ゆめまくら・ばく、1951年~)
作家。
神奈川県小田原市の生まれ。神奈川県立山北高等学校、東海大学文学部日本文学科を卒業。本名は、米山峰夫(よねやま・みねお)。代表作に『陰陽師』や『餓狼伝』など。
『秘伝「書く」技術』の目次
はじめに
第一章 創作の現場 一つの小説ができるまで
第二章 創作の技術 面白い物語をつくるポイント
第三章 創作の継続 どうやれば続けられるか
あとがき
『秘伝「書く」技術』の概要・内容
2019年8月30日に第一刷が発行。集英社文庫。195ページ。
2015年1月26日に集英社インターナショナルの「知のトレッキング叢書」として刊行した単行本『秘伝「書く」技術』を文庫化したもの。
『秘伝「書く」技術』の要約・感想
- 夢枕獏を支える「好き」と「積み重ね」の力
- 司馬遼太郎から学ぶ「人間の典型」の作り方
- 鈴木敏夫が諭した「自分の力で飛ぶ」意味
- 読者の心をつかむ「あとがき」の魔力
- 絶頂期こそ新たな道を拓く作家の生存戦略
- 夢枕獏を形成した三人の文豪の文章術
- 作家も恐れるネットの感想との向き合い方
- 「書きたいもの」を貫くための編集者との関係
- 全ての「書く人」に贈る、創作の羅針盤
『陰陽師』や『餓狼伝』といった数々の傑作を世に送り出し、多くの読者を魅了し続けてきた作家、夢枕獏(ゆめまくら・ばく、1951年~)。
彼の創作活動は、デビューから実に37年以上に及び、刊行された書籍は300冊を超えるという。
これは単純計算で年間8冊以上という驚異的なペースであり、その圧倒的な創作エネルギーと継続力には、ただただ驚嘆するほかない。
これほど長きにわたり、第一線で活躍し続ける作家は、一体どのようにして物語を生み出し、そして書き続けているのだろうか。
その秘密の一端を、自らの言葉で惜しげもなく明かしたのが、本書『秘伝「書く」技術』である。
この本は、単なる小説の書き方マニュアルではない。
一人の作家が、いかにして自らの内なる声に耳を傾け、苦悩し、そして喜びを見出しながら、創作という荒野を歩み続けてきたかの記録である。
そこには、これから文章で何かを表現したいと願う人々はもちろん、日々の仕事や生活の中で壁にぶつかっているすべての人にとって、道を照らす光となる言葉が散りばめられている。
本書で夢枕獏は、自身の経験を振り返り、こう語る。
この本は、初めてぼくが、自分の小説の書き方についてお話しする本です。
作家になって三七年、これまでに三〇〇冊くらいの本を出してきました。(P.11「はじめに」)
37年、300冊。
この数字が持つ重みは計り知れない。
単に人気作を生み出すだけでなく、それを継続することの困難さは、想像に難くない。
本書は、その長年の経験から紡ぎ出された、極めて実践的かつ哲学的な「書く」ための技術論なのである。
夢枕獏を支える「好き」と「積み重ね」の力
作家として、あるいは何かを成し遂げようとする人間として、最も根源的な力とは何だろうか。
夢枕獏は、その問いに対して極めてシンプルな答えを提示する。
「好きなことをする」こと、そして、それは「自分を信じること」に他ならない、と。
好きなことをするというのは、結局のところ、自分を信じることなんですね。(P.19「第一章 創作の現場 一つの小説ができるまで」)
好きなことだからこそ、膨大な資料を読み解く苦労も厭わない。
関係者への取材に足を運ぶこともできる。
そして、その情熱の根底には、「自分はこの道でやっていくのだ」という、揺るぎない自己への信頼が存在する。
この言葉は、創作に限らず、あらゆる分野で道を究めようとする者の胸に深く響くはずである。
しかし、創作の道は平坦ではない。
特に、現実にはあり得ない出来事を描くファンタジーや伝奇小説においては、物語の世界観を構築するための「ルール設定」が極めて重要になる。
この点について、夢枕獏はスタジオジブリの映画監督である宮崎駿(みやざき・はやお、1941年~)から得た、重要な指針を明かしている。
宮崎さんは作品をつくるときに、この物語では、「どこまでの嘘をつくか、その嘘のレベルをまず決める」というような言い方をされました。(P.53「第一章 創作の現場 一つの小説ができるまで」)
例えば、宮崎駿の代表作『風の谷のナウシカ』では、「壺が空を飛ぶ」というレベルまでの嘘は許容する、といったように、物語の中での「嘘の許容範囲」を最初に定めるのだという。
このルールがあるからこそ、読者や観客は安心してその世界の出来事を受け入れ、物語に没入できる。
夢枕獏の描く『陰陽師』の世界で、安倍晴明(あべ・の・せいめい、921年~1005年)が使う呪(しゅ)がリアリティを持つのも、この「嘘のレベル」が巧みに設定されているからに他ならない。
そして、どれだけ「好き」という情熱があり、巧みな世界観を設定できたとしても、創作には必ず苦しみが伴う。
スランプに陥り、一行も書き進められない夜もあるだろう。
そんな時、自分を支えてくれるのは、才能や閃きといった不確かなものではなく、もっと地道で確かなものであると、夢枕獏は言う。
くじけそうなときに最後に自分を支えるのは、ぼくの場合、「ここまでやった」という小さな積み重ねです。自分はここまで調べたんだ、ここまで考えたんだという、細部の積み重ねが、自分を支えてくれる。(P.59「第一章 創作の現場 一つの小説ができるまで」)
この資料を読み込んだ、あの場所に取材に行った、このキャラクターについて何日も考え抜いた。
そうした一つ一つの具体的な行動の積み重ねこそが、自信の源泉となる。
誰かに見せるためではない、自分自身が納得するための努力。
その確固たる事実が、創作という孤独な戦いにおいて、最後の砦となるのである。
司馬遼太郎から学ぶ「人間の典型」の作り方
面白い物語に、魅力的なキャラクターは不可欠である。
では、読者の記憶に深く刻まれるようなキャラクターは、どのようにして生み出されるのだろうか。
夢枕獏は、歴史小説の巨匠である司馬遼太郎(しば・りょうたろう、1923年~1996年)の言葉を引いて、その核心に迫る。
それで、とくに主人公のキャラクターを考える際に意識しているのは、「文学の大事な要素は、その人間の典型をつくること」です。このことを書いていたのが司馬遼太郎さんです。(P.83「第二章 創作の技術 面白い物語をつくるポイント」)
「人間の典型」とは何か。
それは、例えば「織田信長(おだ・のぶなが、1534年~1582年)タイプ」と聞けば、多くの人が革新的で苛烈なリーダーを思い浮かべるように、その名を聞いただけで人物像が立ち上がるようなキャラクターのことである。
司馬遼太郎は、その卓越した筆致で『竜馬がゆく』における坂本龍馬(さかもと・りょうま、1836年~1867年)など、数々の「人間の典型」を創造した。
夢枕獏自身も、この「人間の典型」を意識的に創作に取り入れている。
その最も成功した例が、おそらく『陰陽師』シリーズの安倍晴明であろう。
飄々としていながらも、人知を超えた力と深い洞察力を持つ晴明の姿は、今や多くの人が共有する「安倍晴明の典型」となっている。
興味深いのは、当の司馬遼太郎が「人間の典型をつくることは大事だが、それができる作家は稀である」という趣旨のことも書き残している点だ。
自らその困難さを認めながらも、それに挑み続けた巨匠の姿勢と、その教えを自らの創作に昇華させた夢枕獏の探求心には、学ぶべき点が多い。
鈴木敏夫が諭した「自分の力で飛ぶ」意味
本書には、夢枕獏と他のクリエイターとの交流を示す、興味深いエピソードがいくつも登場する。
中でも、スタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫(すずき・としお、1948年~)との逸話は、創作の本質を鋭く突いている。
驚くべきことに、夢枕獏はかつて宮崎駿の映画原作を内々に依頼された経験があるという。
実はぼくは、宮崎駿さんの映画の原作を内々に依頼されたことがあるんです。鈴木さんがまだ徳間書店にいらした頃にアニメーションの仕事でご一緒したこともあって、交友があったんですね。(P.109「第二章 創作の技術 面白い物語をつくるポイント」)
残念ながら、当時の夢枕獏は寝る間もないほどの多忙を極めており、この企画は実現しなかったという。
もし実現していれば、どのようなジブリ作品が生まれていたのか、想像するだけで胸が躍る。
このエピソードは、夢枕獏とジブリとの意外な接点を示すと同時に、彼の作家としての凄まじい活躍ぶりを物語っている。
その鈴木敏夫が、夢枕獏に極めて重要な助言を与えたエピソードがある。
夢枕獏が、大正から昭和にかけて活躍した作家、中里介山(なかざと・かいざん、1885年~1944年)の未完の大作『大菩薩峠』を現代に蘇らせようと考えていた時のことである。
夢枕獏は、原作を読み返しても面白いと感じられなかったと正直に告白する。
それでもう一度『大菩薩峠』を読み直したのですが、やはり面白くなかった(笑)。何が面白くないって、ストーリーが破綻しているんです。(P.111「第二章 創作の技術 面白い物語をつくるポイント」)
それもそのはずで、もともと新聞で連載されていたこの長大な物語は、単行本化される際に三割から四割も内容が削られ、しかもその際の辻褄合わせが全くなされていなかった。
物語が破綻しているのは、ある意味で当然だったのである。
この構想を鈴木敏夫に打ち明けたところ、彼は鋭い指摘をする。
『新大菩薩峠』というタイトルで、偉大な先行作品の力を借りて安易に飛び立とうとしてはならない、と。
彼はこう言いました。獏さんが『大菩薩峠』をベースに、新しい物語を書こうという試みはいいと思いますよ、と。ただ、『大菩薩峠』という翼を借りて飛んじゃダメだ。「自分の力で飛びなさい」と。「井上雄彦さんが、なぜ吉川英治氏の『宮本武蔵』を原作にした漫画に『バガボンド』と付けたのか、その意味を考えたら、なぜ『新大菩薩峠』がダメなのか、わかるでしょう」とも言いました。(P.114「第二章 創作の技術 面白い物語をつくるポイント」)
「自分の力で飛びなさい」。
この言葉は、全てのクリエイターの胸に突き刺さるだろう。
先人の偉業に敬意を払うことは重要だが、それに寄りかかるだけでは、真のオリジナルは生まれない。
漫画家の井上雄彦(いのうえ・たけひこ、1967年~)が、吉川英治(よしかわ・えいじ、1892年~1962年)の『宮本武蔵』を原案としながらも、全く新しい魂を吹き込んで『バガボンド』という傑作を生み出した。
そのように、借り物ではない、自分自身の翼で飛翔する必要がある。
この助言を受け、夢枕獏は後に『ヤマンタカ 大菩薩峠血風録』として、自らの物語を紡ぎ出すことになるのである。
読者の心をつかむ「あとがき」の魔力
本の最後に記される「あとがき」。
読者の中には、読み飛ばしてしまう人もいるかもしれない。
しかし、夢枕獏は「あとがき」を極めて重要なパートだと考えている。
その重要性を物語る、ユニークなエピソードが面白い。
ある時、夢枕獏は書店で一冊の自己啓発書に心を奪われ、思わず購入してしまったという。
その決め手となったのが、巧みに計算された「あとがき」だった。
ただぼくの買った本はよくできていて、「あとがき」が素晴らしかったんです。
まず「あなたはすごい」と書いてある。あなたというのは、この「あとがき」を読んでいるぼくのことですね。二行目に「なぜなら、この本を手に取ったからだ」と続く。「自分(著者)は無名である。無名の私の本を手に取ったあなたの感性がすごい」とたたみかける。それから、「あなたはとても運がいい、それは私の本を読むことで金がガンガン儲かるようになるからだ」っていうようなことが書いてあるんです。すげえなと思って、思わず買いました(笑)。(P.127「第二章 創作の技術 面白い物語をつくるポイント」)
まず読者を肯定し、その感性を褒め称え、そして輝かしい未来を約束する。
冷静に考えれば、そんなうまい話はないと分かりつつも、その巧みな文章術に引き込まれてしまう。
このエピソードは、読者の心を動かす文章の力を端的に示している。
「あとがき」一つで、本の価値、ひいては読者の体験そのものを大きく変えることができるのだ。
夢枕獏の作品の「あとがき」が、いつも読者への感謝と誠実さに満ちているのは、こうした意識の表れなのかもしれない。
絶頂期こそ新たな道を拓く作家の生存戦略
一つの分野で成功を収めると、人はその場所に安住したくなるものだ。
しかし、夢枕獏は、作家として生き残り続けるためには、常に新しい挑戦が必要だと説く。
そして、その挑戦は、人気が落ちてからではなく、むしろ人気の絶頂にある時にこそ行わなければならない、と。
だからぼくも、売れなくなってから「ほかのものも書けるんですよ」と言ってもダメだなと。いちばん売れているときにこそ、違う作風も書けることを証明しなければいけない。(P.131「第二章 創作の技術 面白い物語をつくるポイント」)
これは、多くのビジネスパーソンにとっても示唆に富む言葉である。
状況が良い時にこそ、次の一手を打ち、自らの可能性を広げておく。
その先見性と行動力が、長期的な成功を支えるのだ。
夢枕獏自身、かつては「エロとバイオレンスの作家」というイメージが強かった。
しかし、その人気が頂点に達していた時期に、壮大なSF小説『上弦の月を喰べる獅子』や、平安時代を舞台にした『陰陽師』シリーズといった、全く異なる作風の作品を発表し、見事に成功を収めた。
現状に満足せず、常に新しい地平を目指すフットワークの軽さ、そしてそれを可能にする確かな実力と日々の研鑽。
これこそが、37年以上も第一線で活躍し続ける作家の、したたかな生存戦略なのである。
夢枕獏を形成した三人の文豪の文章術
夢枕獏の豊潤な物語世界は、どのような言葉によって支えられているのだろうか。
本書では、彼が影響を受け、敬愛してやまない作家たちの文章についても言及されている。
その筆頭に挙げられるのが、無頼派の作家として知られる坂口安吾(さかぐち・あんご、1906年~1955年)である。
一つ目は坂口安吾の『桜の森の満開の下』からです。(P.144「第二章 創作の技術 面白い物語をつくるポイント」)
夢枕獏は、この短編の冒頭部分を引用し、その文章の持つリズムと美しさを称賛する。
簡潔でありながら、読者の想像力をかき立て、一気に物語の世界へといざなう安吾の筆致は、確かに一つの理想形と言えるだろう。
そして、キャラクター造形の項でも登場した司馬遼太郎。
夢枕獏は、パリを旅している最中にも司馬のエッセイを読み返すほど、その文章に心酔している。
数年前、フランスのパリを訪れている際に、『司馬遼太郎が考えたこと』という司馬さんのエッセイを読んでいたんです。ぼくは司馬さんの文章が大好きで、このエッセイはたびたび読み返している。(P.148「第二章 創作の技術 面白い物語をつくるポイント」)
夢枕獏は、司馬遼太郎の文章の魅力の根源は、その背後にある「圧倒的な教養」にあると分析する。
歴史、文化、人間に対する深い洞察が、その滋味豊かな文章を生み出しているのだ。
表面的な美しさだけでなく、知的な裏付けがあってこそ、文章は深みを持つのである。
さらに、夢枕獏が意外なほど深い愛情を注ぐ作家がいる。
それが、詩人であり童話作家の宮沢賢治(みやざわ・けんじ、1896年~1933年)である。
最後にもう一人。宮沢賢治です。ぼくにとっての三大偉人は宮沢賢治、空海、そしてアントニオ猪木さんでして、賢治は本当に大好きなんです。(P.153「第二章 創作の技術 面白い物語をつくるポイント」)
宮沢賢治、空海(くうかい、774年~835年)、そしてアントニオ猪木(あんとにお・いのき、1943年~2022年)。
この異色の組み合わせに、夢枕獏という人間の幅広さと面白さが凝縮されている。
宇宙的なスケールを持つ宮沢賢治の言葉、密教の深遠な世界を説いた空海(夢枕獏は小説『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』を執筆している)、そしてリングの上で「燃える闘魂」を見せ続けたアントニオ猪木。
この三者に共通するのは、常識の枠を超えた圧倒的なエネルギー量であろう。
夢枕獏の作品に脈打つ熱量の源流が、ここにあるのかもしれない。
作家も恐れるネットの感想との向き合い方
現代において、創作者は自らの作品に対する読者の反応を、インターネットを通じて直接目にすることができる。
それは時に励みとなるが、同時に心を深く傷つける刃ともなり得る。
夢枕獏ほどの大家であっても、その刃を恐れることがあると、正直に吐露している。
最近は、ネット上で本の感想を書く方も増えていて、ぼくもたまに見ます。たまにしか見ないのは、正直言って恐ろしいから。褒めてくれていれば嬉しいのですが、なかには恐ろしいことが書いてあるんですよ。(P.176「第三章 創作の継続 どうやれば続けられるか」)
この告白は、多くの読者にとって意外に感じられるかもしれない。
しかし、どれだけキャリアを積んでも、心ない批判は創作者のエネルギーを奪う。
この人間的な弱さの吐露は、逆に夢枕獏という作家をより身近に感じさせ、共感を呼ぶ部分でもある。
「書きたいもの」を貫くための編集者との関係
では、読者の評価や市場の動向といった外部の要因に惑わされず、自らの創作を貫き、そして継続していくために、夢枕獏はどのような方法論を採っているのだろうか。
その答えは、編集者との絶妙な関係性の中にあった。
ぼくがやっているのは、書きたいものを挙げて、編集者に選んでもらうというやり方です。ぼく自身は、売れるかどうかをあまり考えない。書きたいものを書くというスタンスを貫く。どの本が売れるかという判断については編集者にお任せするのです。(P.179「第三章 創作の継続 どうやれば続けられるか」)
これは、まさに天才だからこそ許されるスタイルかもしれない。
しかし、ここには重要なヒントが隠されている。それは「餅は餅屋」という考え方だ。
作家は、自らが「書きたい」と心の底から思える題材に全精力を注ぐ。
そして、それをどう読者に届け、ビジネスとして成立させるかというマーケティング的な判断は、その道のプロである編集者に委ねる。
この見事な役割分担、そして編集者への深い信頼関係こそが、夢枕獏が純粋な創作意欲を失うことなく、長年にわたって書き続けられる大きな要因なのだろう。
自分の得意な領域に集中し、それ以外の部分は信頼できるパートナーに任せる。
この考え方は、多くの仕事に応用できる、普遍的な成功法則と言えるかもしれない。
全ての「書く人」に贈る、創作の羅針盤
本書『秘伝「書く」技術』は、驚くほど平易な言葉で書かれており、非常に読みやすい。
しかし、その行間には、37年という長大な時間の中で培われた、重く、そして深い知見が満ち溢れている。
夢枕獏が影響を受けた坂口安吾、司馬遼太郎、宮沢賢治の文章。
宮崎駿や鈴木敏夫といった異分野のクリエイターとの交流から得た学び。
そして、何よりも「好き」という初期衝動を信じ、「積み重ね」を武器に創作と向き合い続ける一人の作家の真摯な姿。
そのすべてが、読む者の心を強く打つ。
この本は、小説家志望者だけのものではない。
企画書やレポートを作成するビジネスパーソン、ブログやSNSで情報を発信する人。
あるいは、自分の考えや想いを言葉にして誰かに伝えたいと願うすべての人。
そのような人々にとって、多くの気づきと勇気を与えてくれるはずだ。
文章を書くという行為は、時に孤独で、困難を伴う。
しかし、本書を読めば、その闇の中に確かな光を見出すことができるだろう。
夢枕獏という偉大な先達が示してくれた創作の羅針盤を手に、あなたもまた、自分だけの言葉を紡ぐ旅に出てみてはいかがだろうか。
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