永井路子の略歴
永井路子(ながい・みちこ、1925年~2023年)
小説家。
東京都文京区の生まれ。生後数年で実父を失う。3歳で茨城県古河市(こがし)に転居。茨城県立古河高等女学校(現在の茨城県立古河第二高等学校)を卒業。1944年に、東京女子大学国語専攻部を卒業。戦後は東京大学で経済史を学ぶ。1949年に歴史学者の黒坂伸夫(くろいた・のぶお、1923年~2015年)と結婚。小学館に入社し編集を担当。歴史小説も書き始める。1964年に『炎環』で直木賞を受賞。本名は、黒板拡子(くろいた・ひろこ)。
『悪霊列伝』の目次
吉備聖霊 忘れられた系譜
不破内親王姉妹 呪われた皇女たち
崇道天皇 怨念の神々
伴大納言 権謀の挫折
菅原道真 執念の百年
左大臣顕光 不運と報復
参考文献
『悪霊列伝』の概要
2014年9月11日に第一刷が発行。ゴマブックス。243ページ。電子書籍。
もともとは、1977年11月に毎日新聞社から刊行されたもの。その後、各出版社で文庫本が発売されている。
以下、目次に列挙されている人物たちについて。
吉備内親王(きびないしんのう、686年頃~729年)…草壁皇子(くさかべのみこ、662年~689年)と第42代天皇・元明天皇(げんめいてんのう、661年~721年)の次女。長屋王(ながやおう、676年 or 684年~729年)の妃。目次では「吉備聖霊(きびのしょうりょう)」。永井路子は、吉備聖霊を吉備内親王と推測している。
不破内親王(ふわないしんのう、生没年不詳)は、第45代天皇・聖武天皇(しょうむてんのう、701年~756年)と県犬養広刀自(あがたいぬかいのひろとじ、?年~762年)の娘。井上内親王(いのえないしんのう、717年~775年)の妹。
崇道天皇(すどうてんのう、750年?~785年)…早良親王(さわらしんのう)のこと。崇道天皇は追諡(ついし)で、死後に贈られた名前。第49代天皇・光仁天皇(こうにんてんのう、709年~782年)と高野新笠(たかののにいがさ、?年~790年)の子。第50代天皇・桓武天皇(かんむてんのう、737年~806年)の弟。
伴善男(とものよしお、811年~868年)…公卿。官位は正三位・大納言。目次では「伴大納言(ばんだいなごん)」。
菅原道真(すがわらのみちざね、845年~903年)…貴族、学者、政治家、漢詩人。官位は従二位・右大臣。死後に贈正一位・太政大臣。祭神の火雷天神(からいのてんじん)と考えられている。
藤原顕光(ふじわらのあきみつ、944年~1021年)…公卿。藤原北家、関白太政大臣・藤原兼通(ふじわらのかねみち、925年~977年)の長男。官位は従一位・左大臣。目次では「左大臣顕光」。
『悪霊列伝』の感想
漫画『応天の門』を3巻読む。kindle unlimitedで読む。
貴族で歌人の在原業平(ありわらのなりひら、825年~880年)と、菅原道真がコンビを組んで、世間で起きる不可思議な問題を解決していく物語。
面白い。3巻までしか読んでいないけれど。続きを購入しようか迷っている内に、菅原道真に改めて興味を持つ。
菅原道真は、幼少期から学問や漢詩に才能を発揮して、素晴らしい速度で出世をしていく。
第59代天皇・宇多天皇(うだてんのう、867年~897年)から非常に信頼されて、右大臣という凄く偉い地位に就く。最終的には、陰謀によって中央から地方へと左遷させられて不遇のままに死んでしまう。
後に、関係者が亡くなっていく。病死や事故死などで。
更に時を経て、平安京では落雷事件が起きて、何人もの死傷者が出る。菅原道真の怨霊の仕業だという噂が広がる。現場に居合わせた第60代天皇・醍醐天皇(だいごてんのう、885年~930年)も3カ月後に亡くなってしまう。
最終的に、菅原道真は怨霊とされてしまう。時代は移り変わり、神格化され、天神信仰となり、天満宮の主神に。今では学問の神様として有名になっている。
といった流れ。
京都の北野天満宮って、行ったような気もする。大阪の天満宮、山口の防府天満宮は、お参りをしている。福岡の太宰府天満宮は、まだ足を運んだことがない。
下御霊神社と上御霊神社も、未訪問。近い内に訪ねてみたい。
というわけで、菅原道真に関連した小説や本を読んでみたいと思って探してみた。
そこで見つけたのがこの永井路子の『悪霊列伝』である。しかもkindle unlimitedにあった。そりゃ読むでしょ、ということで読み始めたら、あっという間に読み終えてしまった。面白かった。
永井路子の作品自体が始めてであったが、とても読みやすかった。
一般的な歴史小説ではなく、ノンフィクション的、ルポルタージュ的な構成。現代の視点、作家の視点から物事が描かれて、現在の具体的な事例、作家の小話なども挿入される。その中で歴史の物語も繰り広げられる。
一般的な歴史小説、主人公の視点などの物語を想像すると、少し驚くかもしれないし、この構成というか、スタイルが合わない人もいるかも。自分の場合には合っていた。とても読みやすく感じた。永井路子のリズムが合っていのかもしれない。
周辺の人々の気持ちというか、陥れられてしまった人への同情的な心情も反映されていたのだろう。また、その怨霊という力を上手く利用して、良い立場を得ようと暗躍した人達もいたのだろう。
人間の感情というか、愚かさというか、悲しさというものも浮かび上がってくる。
結局は、あらゆる権力闘争か。
続編の『続 悪霊列伝』があるので、そちらも読み進めていこうと思う。
続編で書道家としても有名な三筆の一人でもある橘逸勢(たちばなのはやなり、782年?~842年)が書かれているかな、と思ったら題材になっていなかった。ちょっと残念。
最後に参考文献について。
史料は、『続日本紀』(しょくにほんぎ)、『日本後紀』(にほんこうき)、『日本文徳天皇実録』(にほんもんとくてんのうじつろく)、『日本三代実録』、『日本紀略』、『扶桑略記』。
佐伯有清(さえき・ありきよ、1925年~2005年)や、角田文衞(つのだ・ぶんえい、1913年~2008年)、林陸朗(はやし・ろくろう、1925年~2017年)といった歴史学者の本も参考にしている。
上記の本などは、国立国会図書館デジタルコレクションで探せばあるかもしれないので、活用するのもオススメ。
というわけで、吉備内親王、不破内親王の姉妹、崇道天皇、伴善男、菅原道真、藤原顕光を題材に、怨霊となった経緯を詳しく解説したノンフィクション的な歴史物語なのでした。
書籍紹介
関連書籍
関連スポット
下御霊神社
京都府京都市中京区下御霊前町(まえちょう)にある神社。863年(貞観5年)に創建。主祭神は、吉備聖霊、崇道天皇、伊予親王、藤原大夫人、藤大夫、橘大夫、文大夫、火雷天神。
公式サイト:下御霊神社
上御霊神社
京都市上京区上御霊竪町(たてまち)にある神社。863年(貞観5年)に創建。主祭神は、崇道天皇、他戸親王、井上大皇后、藤原大夫人、橘大夫、文大夫、火雷神、吉備大臣。
公式サイトは特に無い。京都府神社庁の上御霊神社のページはある。
古河文学館:永井路子
茨城県古河市にある文学館。永井路子をはじめ、古河市にゆかりのある作家たちの作品や関連資料を展示。
公式サイト:古河文学館
永井路子旧宅(古河文学館別館)
茨城県古河市にある永井路子旧宅。古河文学館の別館でもある。
公式サイト:永井路子旧宅(古河文学館別館)