
五味康祐(ごみ・やすすけ、1921年~1980年)は、『喪神』で芥川賞を受賞した純文学作家でありながら、『柳生武芸帳』で一大剣豪ブームを巻き起こした大衆小説の巨匠でもあります。
さらに「オーディオの神様」とも呼ばれるほどの多才な文化人でした。
その作品世界は、奇想天外な娯楽作から、武士の魂や組織の力学を描く重厚な歴史ロマンまで、非常に多彩です。
この記事では、これから五味康祐を読み始めたい初心者の方に向けて、その広大な作品群の中から特におすすめの本を「読みやすさ」を基準に12冊厳選しました。
簡単な作品からステップアップできる「読書の旅」として構成していますので、あなたの好みに合う最初の一冊を見つけるための必読書ガイドとしてご活用ください。
1. 『スポーツマン一刀斎』 五味 康祐
おすすめのポイント
剣豪・伊藤一刀斎の末裔がプロ野球の巨人軍に入団し、37本連続ホームランを放つという奇想天外な快作。
武士の鍛錬や超人的な技術といった五味康祐作品の核となるテーマを、現代のプロスポーツという親しみやすい舞台に置き換えています。
歴史に関する予備知識が一切不要でテンポも良く、五味康祐の世界への完璧な「入門書」としておすすめの本です。
次のような人におすすめ
- 時代小説や剣豪小説にはじめて触れる方
- ユーモラスで奇抜な設定のエンターテインメント小説が読みたい方
- 野球やスポーツが好きで、武士道との意外な組み合わせに興味がある方

2. 『いろ暦四十八手』 五味 康祐
おすすめのポイント
江戸時代を舞台にした、人間ドラマ中心の短編集です。
表題作は、華魁の機転が武士を救うも、意図せぬ悲劇を生む物語。
本書が初心者におすすめな理由は、各話が独立しているため、短い時間で気軽に読み進められる点。
複雑な歴史背景や剣の哲学よりも、登場人物の感情や人生の皮肉に焦点が当てられており、五味康祐の人間描写の巧みさを手軽に味わえます。
次のような人におすすめ
- スキマ時間を使って、一話完結の短編を少しずつ楽しみたい方
- 江戸の市井に生きる人々の人情話や、少し皮肉の効いたドラマが好きな方
- 剣豪小説だけでなく、人間ドラマ作家としての五味康祐の一面にも触れたい方
3. 『刺客』 五味 康祐
おすすめのポイント
謀略、諜報、政治的陰謀に焦点を当てた短編集。
坂本龍馬を暗殺した男の内面を探る表題作をはじめ、将軍転覆計画や隠密の活躍など、スリリングなアクションが描かれます。
物語の筋立てが直線的で追いやすく、読者を興奮させる展開が魅力。
後に続く『柳生武芸帳』のような、より複雑な政治スリラーへの橋渡し役としても最適なおすすめ本です。
次のような人におすすめ
- 歴史の裏側で暗躍するスパイや諜報活動の物語に興味がある方
- ハラハラするアクション中心のエンターテインメント小説を読みたい方
- 短編で五味康祐の描く剣豪や謀略の世界観をまず掴みたい方

4. 『喪神・柳生連也斎』 五味 康祐
おすすめのポイント
五味康祐に芥川賞をもたらした表題作『喪神』を収録した作品集。
父の仇のもとで修行を積む剣士の姿を描いた『喪神』は、わずか30ページながら簡潔かつ鮮烈に剣の道を映し出します。
同時に『柳生連也斎』など、大衆小説の巨匠としてのお馴染みの魅力も詰まっています。
純文学作家としての五味と、剣豪小説家としての五味の両方に触れられる、ターニングポイントとなる一冊です。
次のような人におすすめ
- 五味康祐が芥川賞を受賞した、純文学作家としての側面も知りたい方
- ストイックに剣の道を追求する、緊張感のある物語が好きな方
- 著者の原点と、その後の人気作風の両方の魅力を一度に味わいたい方
5. 『まん姫様捕物控』 五味 康祐
おすすめのポイント
江戸時代の探偵小説である「捕物帳」の形式をとった作品。
美貌と天下一品の剣の腕を兼ね備えた大名の奥方とその娘が、市中で起こる難事件を解決していきます。
一話完結の形式で読みやすく、型破りで魅力的な女性主人公たちが活躍する軽快なトーンが魅力。
五味康祐の創作範囲が、深刻な剣豪小説だけにとどまらないことを知るのに最適な娯楽小説です。
次のような人におすすめ
- 時代劇の探偵ものや、一話完結のミステリーが好きな方
- 強くて聡明な女性が主人公として活躍する物語を読みたい方
- 重厚な歴史小説よりも、まずは軽快なトーンで楽しめる本を探している方

6. 『色の道教えます』 五味 康祐
おすすめのポイント
ピカレスク(悪漢)風の娯楽冒険小説。
世継ぎのいない若殿に「閨房の秘策」を伝授する密書を運ぶため男装した女飛脚が、追手の刺客をかわしながら東海道を駆けます。
その魅力は、直線的でテンポの良い物語と、軽妙でユーモラスな語り口。
純粋なエンターテインメントを書きこなす五味康祐の才能を示す一作としておすすめです。
次のような人におすすめ
- 肩の凝らない冒険活劇や、ロードムービーのような物語が好きな方
- ユーモラスで、少しお色気のある軽妙な作品を読みたい方
- 五味康祐の多彩な作風の中でも、特に娯楽性に振り切った本に触れたい方
7. 『薄桜記』 五味 康祐
おすすめのポイント
有名な「忠臣蔵」の物語を背景に、愛と名誉、そして友情を描いた悲劇的な歴史ドラマです。
架空の剣士・丹下典膳と、実在の堀部安兵衛という二人の剣士が主人公。
固い友情で結ばれた二人が、歴史的事件によって敵対する立場となり運命に翻弄されます。
明快な筋立てと胸を打つ力強い感情の核心が、武士道の重みを個人的なレベルで伝え、心を揺さぶる読書体験を提供します。
次のような人におすすめ
- 「忠臣蔵」の物語や、武士の名誉と忠義を描いた作品が好きな方
- 友情や悲恋など、力強い人間ドラマに深く感動したい方
- 娯楽作の次に、五味康祐のシリアスで深遠な作品世界へ進みたい方

8. 『五味康祐 オーディオ遍歴』 五味 康祐
おすすめのポイント
「オーディオの神様」と呼ばれた五味康祐の、体験的オーディオ論19編を収めた随筆集。
タンノイ・オートグラフへの愛、真空管アンプの品位、マランツ10Bの追求など、銘機を前に理想の音を求め続けたスーパーマニアとしての情熱が伝わります。
剣士が究極の技を求める姿と重なる、彼のもう一つの「道」を知るためのおすすめのエッセイです。
次のような人におすすめ
- 五味康祐の小説以外の側面、特にオーディオへの情熱を知りたい方
- クラシック音楽やヴィンテージオーディオ(真空管アンプ、タンノイなど)に興味がある方
- 剣豪小説だけでなく、著者の「道」の追求という哲学に触れたい方
9. 『柳生武芸帳(上)』 五味 康祐
おすすめのポイント
五味康祐の最高傑作であり、剣豪小説というジャンルの金字塔です。
徳川幕府を転覆させうる三巻の秘伝書を巡る、壮大な政治叙事詩。
この作品で柳生一族は将軍直属の諜報機関として描かれ、ライバルとの影の戦争を繰り広げます。
複数の派閥が絡み合う複雑な筋立ては集中力を要しますが、巨大な組織に奉仕する個人の姿という五味の核心的テーマが完全に具現化された、必読書です。
次のような人におすすめ
- 重厚で多層的な政治ドラマや、本格的なスパイ・スリラー小説が好きな方
- 「柳生十兵衛」や「公儀隠密」といったモチーフに強く惹かれる方
- 五味康祐の代表作にして、剣豪小説の最高峰に挑戦したい方

10. 『二人の武蔵(上)』 五味 康祐
おすすめのポイント
伝説の剣豪・宮本武蔵が、実は冷静沈着な平田武蔵と野性味あふれる岡本武蔵という二人だった、という大胆な仮説に基づいた野心的な歴史改変小説。
二人の武蔵の並行し交差する人生を追い、巌流島で戦ったのはどちらかという謎に迫ります。
アイデンティティや神話の創造といったテーマを探求しており、元の武蔵伝説を知っているほど、その独創性を楽しめる上級者向けの一冊です。
次のような人におすすめ
- 宮本武蔵の伝説や逸話に詳しく、異なる解釈の物語を読んでみたい方
- 史実の「もしも」を描いた、大胆な仮説に基づく歴史小説が好きな方
- アイデンティティの二元性や、伝説が生まれる過程といったテーマに興味がある方
11. 『柳生石舟齋(第一巻)』 五味 康祐
おすすめのポイント
柳生一族の始祖、柳生宗厳(石舟斎)の生涯を描いた大河小説。
剣聖・上泉信綱との出会い、新陰流の習得、「無刀取り」の開眼に至るまでが詳述されます。
アクションよりも柳生流の「活人剣」という哲学の起源に焦点を当てた長大なシリーズ。
他の柳生関連作品を読んだ後にその原点として読むことで、より深く理解できる作品です。
次のような人におすすめ
- 一つの家の歴史と哲学の成り立ちを、じっくりと追う大河ドラマが好きな方
- 剣のアクションよりも、その根底にある精神性や哲学を深く学びたい方
- 『柳生武芸帳』などを読み終え、柳生一族の原点となる物語に触れたい方

12. 『剣法奥儀』 五味 康祐
おすすめのポイント
五味康祐の傑作短編集。
心極流「鷹之羽」、知心流「雪柳」、天心独明流「無拍子」、一刀流「青眼崩し」、失意流「浦波」、風心流「畳返し」、柳生流「八重垣」。
各流派の秘太刀(奥儀)を生み出す剣豪たちの、妖気ただよう決闘を描きます。
単なる物語を超え、剣術そのものの「術と学」の由来と哲学を探求する内容。
剣の本質を深く理解したいと願う読者のための最終ステップと言えるでしょう。
次のような人におすすめ
- 剣術の具体的な流派や秘伝の技、その理論的背景に強い興味がある方
- 五味康祐の剣豪小説を読み尽くし、その知識の源泉や哲学に触れたい方
- 物語性よりも、専門的で知的な深みのある読書体験を求める方
まとめ:五味康祐の「道」への旅を始めよう
五味康祐のおすすめ本12選を、読みやすい入門編から重厚な達人編まで、旅のステップとして紹介しました。
奇想天外なプロ野球小説から始まり、江戸の人情ドラマ、謀略渦巻くスリラー、オーディオのエッセイ。
そして剣の奥義を描く深遠な作品まで、その世界の幅広さを感じていただけたかと思います。
五味康祐の作品は、どれも「道」の追求というテーマで繋がっています。
ぜひこのガイドを参考に、あなたの興味に合う一冊から、五味康祐の奥深い「道」への旅を始めてみてください。
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