- 共通点から始める
- 否定せず受け止める
- 実例で説得力を
- 感情に寄り添う
村西とおるの略歴・経歴
村西とおる(むらにし・とおる、1948年~)
AV監督。
本名は、草野博美(くさの・ひろみ)。福島県いわき市の出身。福島県立勿来工業高等学校を卒業。バーのボーイとして働き始めて、その後、様々な営業職に就く。
『禁断の説得術 応酬話法』の目次
はじめに――これがなければ死んでおりました
序章 応酬話法とは何か
第一章 質問話法――質問によって本音を炙り出す
第二章 間接否定話法――最初に肯定してから、ソフトに否定していく
第三章 繰り返し話法――相手の言葉を繰り返して、悪感情を緩和する
第四章 実例話法――具体例を示すことで、説得力・親近感・安心感が増す
第五章 聞き流し話法――論争を避け、自分のペースに持ち込む
第六章 大失敗
終章 自分を識る
『禁断の説得術 応酬話法』の概要・内容
2018年3月10日に第一刷が発行。祥伝社。電子書籍は2020年3月25日に制作。
副題は“「ノー」と言わせないテクニック”。
『禁断の説得術 応酬話法』の要約・感想
- 「ノーと言わせない」は強引じゃない? その真意に迫る
- 「打率」を知ることで、成果への焦りを手放す
- 説得の基本は「共通点」から始める
- 「否定」から入らない。まずは受け止める
- 言葉を「繰り返す」だけで、信頼感が生まれる
- 実例を語ることで、説得力が劇的に増す
- 反論しない強さ。聞き流し話法で主導権を握る
- 認められたいという「人間の本能」を理解せよ
- 自分を知るとは、他者の中での自分を知ること
- まとめ:営業職に限らず、全ての大人にすすめたい「対話の教科書」
「ノーと言わせない」は強引じゃない? その真意に迫る
人を動かす言葉の力――それは営業の現場だけでなく、ビジネス全般、さらには日常の人間関係においても極めて重要なスキルです。
村西とおる著『禁断の説得術 応酬話法』は、そんな「人を説得する技術」を、経験と実践に基づいて体系的に解説した一冊です。副題は「ノーと言わせないテクニック」。一見、相手を押し切る強引な話術を想像するかもしれませんが、実際にページをめくると、その内容は想像とはまったく異なります。
本書で描かれる説得術とは、相手の立場や感情を尊重しながら、自然に「イエス」を引き出していく丁寧な会話の技術。読後には、営業職に限らずあらゆる対人場面で活かせる、普遍的なコミュニケーションの本質が見えてきます。
「打率」を知ることで、成果への焦りを手放す
冒頭から登場する印象的な一節があります。
「私の経験では50人に話ができると、2割の10人から契約を取ることができました」(No.274)
著者は自分の営業成績を“打率”として捉え、契約が取れない日が続いても、「2割の打率は必ず戻ってくる」と冷静に受け止めていたと言います。これは営業に限らず、どんな目標にも通じる考え方です。
この考え方を取り入れれば、今日結果が出なかったからといって自信を失うこともなくなります。失敗も成功も含めて全体の「打率」で捉える。そうすれば、淡々と目の前のことに集中できるようになるでしょう。
個人的にも、この「打率思考」は非常に参考になりました。結果が出ない時期も、確率として捉えることでメンタルを安定させられる。この感覚は、目の前の失敗に振り回されやすい人にこそ響くはずです。
説得の基本は「共通点」から始める
第1章では、相手と対立するのではなく、「共通点を起点にする」ことで説得の糸口をつかむ方法が語られます。
「まず意見が一致している問題から始め、絶えずその一致していることを強調するようにします」(No.500)
相手の考えを否定せず、「同じ目的を共有している」というスタンスで接すると、対話の空気がぐっと柔らかくなります。営業現場では、お客様と自分の「ゴール」が一致していると示すことが、信頼を得る第一歩になります。
たとえば、単に「この商品を買ってください」と言うよりも、「業務効率を改善したいですよね。そのためにこういう方法があります」と話を始めた方が、はるかに相手の心に届きます。
目的やビジョンを共有し、大きな理想を一緒に見据える。こうした始まり方は、信頼関係の構築に極めて有効だと感じます。
「否定」から入らない。まずは受け止める
第2章「間接否定話法」では、相手の言い分を一度肯定してから、自分の意見を伝える手法が紹介されます。
「お客様の断わり文句を聞いたら、最初に『おっしゃる通りです』『なるほど、そうなんですか』と肯定することから話を組み立てることを徹底してください」(No.790)
これを聞くと、「一歩引いたら負けでは?」と感じる人もいるかもしれません。しかし、これは「譲歩」ではなく「受容」です。相手を受け止めることで、むしろこちらの主張が通りやすくなるのです。
実際、否定から入ると相手は身構えてしまう。肯定から入ることで、会話の流れが驚くほど穏やかになる。この技術は意識的に磨く価値があります。
言葉を「繰り返す」だけで、信頼感が生まれる
第3章「繰り返し話法」は、相手の発言をそのまま返すだけのシンプルな手法。しかし、この単純な反復が、驚くほど強い信頼を生みます。
「そう、好きなの。欲しいのね」と語る母親の例(No.1101)
このような言葉の反映は、「あなたの気持ちを理解しようとしています」というメッセージになります。心理的な安心感を生み出す非常に有効な方法です。
自分の話を繰り返してもらえると、誰しも「聞いてもらえている」と感じます。これは、交渉や対話の潤滑油となる技術です。
実例を語ることで、説得力が劇的に増す
第4章の「実例話法」では、抽象的な説明ではなく、実体験を交えて話すことで、相手の納得度を高める方法が紹介されています。
著者は、契約が成立した顧客に対して必ず手書きの礼状を送っていたとのこと。
「その日のうちに書いて、翌日にポストに投函していた」(No.1240)
このひと手間が、相手の記憶に残り、信頼関係を築く大きな力になる。編集者の見城徹(けんじょう・とおる、1950年~)や、箕輪厚介(みのわ・こうすけ、1985年~)などの成功している人物たちも同様の習慣を持っており、実例が持つ力の大きさを再認識させられます。
反論しない強さ。聞き流し話法で主導権を握る
第5章では、無駄な対立を避け、自分のペースで話を進める「聞き流し話法」が紹介されます。
「お客さまは『正しい』『すばらしい』『見事だ』と認め、惜しみなく褒める心を失わないでください」(No.1424)
この章で語られるのは、相手を立てつつ、会話の流れを主導するスマートな話術です。
「聞き流す」というと、適当にあしらうように感じるかもしれませんが、実際には高度なバランス感覚が求められます。相手を立てながら、核心から離れないように自分の軸を保つ。これが本物のコミュニケーション能力でしょう。
認められたいという「人間の本能」を理解せよ
第6章「大失敗」では、「説得が失敗する典型例」として、自分本位な話し方が取り上げられます。
「人間は常に他人から褒められること、認められることに飢えています」(No.1680)
商品やサービスの説明よりも、まずは相手の感情を満たすことが大切。人は理屈で動くのではなく、感情で動く生き物なのです。
「褒められたい」「認められたい」という根源的な欲求を理解し、それを尊重すること。それこそが、真の説得力につながるのだと実感させられました。
自分を知るとは、他者の中での自分を知ること
終章では、「自己認識」についての深い洞察が語られます。
「他人が自分をどう思うかで、自分が何者であるかを判断できるのです」(No.2008)
これは、他者評価に過度に依存するという話ではなく、社会的存在としての自分を知るためには、他者との関係が必要不可欠だという示唆です。
仕事においては他者の評価を受け入れつつ、人生全体としては自分自身の評価軸を持つ。この二重性こそ、成熟した生き方の基盤なのだと思います。
まとめ:営業職に限らず、全ての大人にすすめたい「対話の教科書」
『禁断の説得術 応酬話法』は、営業マンのためのハウツー本という枠を超え、“人間関係をなめらかにする”ための実践的な言葉の技術書です。
- 否定しない
- 共通点から話す
- 実例を語る
- 受け止めて流す
- 相手の感情に寄り添う
これら全ては、「相手と良好な関係を築きながら、自分の目的も達成する」ための会話術。その根底にあるのは、「相手を尊重する姿勢」です。
強引さではなく、誠実な対話によって成果を生み出す。そんなコミュニケーションを目指す全ての方に、本書は一読の価値があります。