遠藤寛子の略歴
遠藤寛子(えんどう・ひろこ、1931年~)
児童文学作家、教師。
三重県の生まれ。三重大学を経て、法政大学文学部史学科を卒業。三重県の中学校、都立の養護学校で勤務しながら創作活動に従事。
『算法少女』の目次
はじめに
花御堂
壺中の天
手まりうた
九九をしらぬ子
雨の日
縁台ばなし
わざくらべ
まね
オランダの本
わたしの本
決心
あたらしい道
江戸だより
ちくま学芸文庫版あとがき
『算法少女』の概要
1973年10月10日に岩崎書店から刊行。1974年に、第21回・サンケイ児童出版文化賞を受賞。1962年~1988年まで、サンケイの表記。それ以外は、産経と書かれる。
2006年8月10日に、ちくま学芸文庫から第一刷が発行。263ページ。
算法の得意な少女が、ちょっとした出来事から、一躍注目を浴びる。それに伴う上方算法と関流算法の対立による騒動。江戸時代を舞台にした歴史物語。
2008年3月、2018年度の日本数学会出版賞を受賞。
後に、漫画化、またアニメ映画化も。
ちなみに、“算法”とは、計算の方法、算術。または、江戸時代の数学を指す言葉。
先述の“関流”とは、江戸時代の数学者・関孝和(せき・たかかず、1640年頃?~1708年)の流れを受け継いだ数学の系統のこと。
1775年に刊行された和算書『算法少女』の成立を巡る史実に沿ったストーリー。基本的には、少年少女向けではああるが、大人でも非常に楽しめる内容。
実際の歴史的な人物としては以下など。
谷素外(たに・そがい、1733年~1823年)…俳人。大阪の商家に生まれ、壮年の頃に江戸に移る。号は一陽井。
有馬頼徸(ありま・よりゆき、1714年~1783年)…大名であり、数学者。筑後久留米藩の第7代藩主。久留米藩・有馬家の第8代。1769年に、豊田文景の筆名で、和算書『拾璣算法』(しゅうきさんぽう)、5巻を著した。
藤田貞資(ふじた・さだすけ、1734年~1807年)…有馬家の家臣であり、数学者。現在の埼玉県深谷市生まれ。
会田安明(あいだ・やすあき、1747年~1817年)…数学者。現在の山形県生まれ。鈴木彦介と名乗っていた。
本多利明(ほんだ・としあき、1743年~1821年)…数学者、経済思想家。現在の新潟県生まれ。
日本では江戸時代に、鎖国のため、全ての分野で海外からの情報が入りにくく、数学においても、独自の発展を遂げた。
このような経緯から、西洋の数学である洋算に対して、日本特有の数学は、和算とも呼ばれ、江戸時代の数学者を和算家とも。
カバーの装画や挿し絵などは、画家、絵本作家、美術教育者である箕田源二郎(みた・げんじろう、1918年~2000年)が担当。
『算法少女』の感想
何となく、数学に対する憧れを持っている。
別に自分自身は、数学が得意というわけでは無いけれど。
数学者である藤原正彦(ふじわら・まさひこ、1943年~)や、岡潔(おか・きよし、1901年~1978年)の本なども好きである。
小川洋子(おがわ・ようこ、1962年~)の『博士の愛した数式』や、冲方丁(うぶかた・とう、1977年~)の『天地明察』なども好きである。
そんなこんなで、今回の『算法少女』である。
どういった経緯で、この作品を知ったのかは忘れてしまった。
恐らく数学や数学者関連ではなく、歴史時代小説の流れで、知ったような気がする。
評判も、とても良く、早速購入。
結果、とても楽しく読めた。やはり、名作と呼ばれる古典的な素晴らしい物語。
とても読みやすく、登場人物たちも、気持ちの良い人ばかり。
悪い役の登場人物も出て来るが、安心して読める作品である。
主人公となるのは、数学好きの町娘・千葉あき。父親は、数学好きの医師・桃三(とうぞう)。
その友人が、谷素外である。で、この谷素外は、画家の東洲斎写楽(とうしゅうさい・しゃらく、生没年不詳)かも、という説もあるとか。
この物語のラストで、少し触れられる逸話でもある。
さまざまな登場人物たちが出てくるが、キャラクター造型も良く、無理がない。
とてもスムーズに読み進めることができる。
さらに構成というか作りのポイントは、ルビである。
漢字は極力少なくしているとは思うが、さらにルビは、見開き毎に再度、登場してくるので、名前の読み方なども確認しやすい。
その辺りの配慮が、とても良い。
子供たちが無理なく読めるようになっている。丁寧な仕上げである。
有馬頼徸って何かで、出てきたな、と思っていたら。
先述した数学者・藤原正彦の父親であり、小説家でもある新田次郎(にった・じろう、1912年~1980年)の作品にも出てきていた。
『梅雨将軍信長』の「二十一万石の数学者」の主人公で描かれている。
こちらの作品もオススメである。
『算法少女』は、歴史時代小説好きな人、数学関連の物語が好きな人、児童文学に興味のある人、まだ若い少年や少女など、多くの人が楽しめる物語。
粗筋などを見て、少しでも関心があったら、是非読んでもらいたい作品である。
また、この本の再販までの流れなども紆余曲折があり、面白い。
岩崎書店が『算法少女』の増刷をせず、最終的にさまざまな人々の尽力を得て、ちくま学芸文庫によって復刊したという経緯がある。
その辺りのドラマは、文庫判のあとがきに詳細が記述されている。
物語そのものも、この再販となった著作の経緯も、とても興味深い作品である。