
第163回直木賞を受賞した『少年と犬』で、その名を知った方も多いのではないでしょうか。
馳星周(はせ・せいしゅう、1965年~)。
かつては日本のクライムノワール(暗黒小説)の旗手として、現在は心揺さぶる動物小説の名手として、二つの顔を持つ稀代のストーリーテラーです。
「馳星周の小説を読んでみたいけれど、どれから読めばいいの?」
「怖い話は苦手だけど大丈夫?」
そんな疑問を持つ方のために、初心者でも読みやすい作品から、どっぷりと深い沼にハマれる傑作まで、おすすめの本を厳選しました。
泣ける感動巨編から、ヒリヒリするようなサスペンスまで、あなたの読書体験を変える一冊との出会いがここにあります。
1.『ゴールデン街コーリング』馳星周
おすすめのポイント
馳星周という作家の「原点」を知るのに最適な、自伝的青春小説です。
舞台はバブル前夜、1980年代の新宿ゴールデン街。
作家デビューする前の若き日の著者がモデルとなり、本と音楽と酒に溺れる日々が、切なくも瑞々しい筆致で描かれています。
ノワール作家としてのハードなイメージとは異なり、若者の焦燥感や何者かになりたいという普遍的な渇望がテーマ。
そのため、非常に読みやすく、共感を呼びやすい一冊。
当時のカルチャーや空気感が真空パックされたようなノスタルジーも魅力です。
次のような人におすすめ
- 80年代のカルチャーや昭和レトロな雰囲気が好きな人
- 作家の自伝的なエピソードや青春小説を楽しみたい人
- 暴力的な描写が少なく、さらりと読める馳星周作品を探している初心者

2.『ソウルメイト』馳星周
おすすめのポイント
「犬は言葉を話さないが、魂で会話ができる」。
そんな深い絆を描いた、涙なしには読めない短編集です。
チワワ、柴犬、コーギー、そして著者が愛してやまないバーニーズ・マウンテン・ドッグなど、7つの異なる犬種が登場。
それぞれの犬と飼い主の物語が、優しく、時に切なく綴られます。
特に、ペットを飼っている人や、かつて飼っていた人にとっては、胸を締め付けられるようなリアリティと癒やしがあります。
『少年と犬』で馳星周に関心を持った方が、次に手に取る本として間違いのない一冊です。
次のような人におすすめ
- 犬を飼っている人、動物との絆を描いた物語が好きな人
- 長編を読む時間は取れないが、短編で深い感動を味わいたい人
- 心温まるストーリーで癒やされたいと考えている人
3.『少年と犬』馳星周
おすすめのポイント
第163回直木賞を受賞した、近年の代表作にして必読の感動作。
東日本大震災で飼い主を失った一匹の犬「多聞」が、東北から南の方角を目指して旅をするロードノベル形式の連作短編です。
多聞が出会うのは、傷つき、人生に迷う人々。
犬という無垢な存在を通して、人間の愚かさと美しさが浮き彫りにされます。
ハードボイルドな作風で知られた著者が到達した、シンプルながらも力強い「愛」と「喪失」の物語。
ラストシーンの情景は、読後も長く心に残ることでしょう。
次のような人におすすめ
- 話題の直木賞受賞作を読んでおきたい人
- 思いっきり泣ける小説、感動する小説を探している人
- 犬と人間のドラマを通して、生きる希望を感じたい人

4.『アンタッチャブル』馳星周
おすすめのポイント
重厚な作品が多い中で、異彩を放つ痛快な警察エンターテインメントです。
公安警察の窓際部署を舞台に、身長190センチの巨漢で超エリートの変人警視と、彼に振り回される不運な刑事がコンビを組み、国際テロに立ち向かいます。
「コメディ・ノワール」とも呼べるテンポの良さとユーモアがありながら、ミステリーとしての伏線回収も見事。
ページをめくる手が止まらないリーダビリティの高さは、エンタメ小説好きにはたまりません。
次のような人におすすめ
- ドラマ「相棒」のようなバディものや警察小説が好きな人
- シリアスすぎず、スカッとする読後感を楽しみたい人
- 一気読みできる面白いミステリーを探している人
5.『帰らずの海』馳星周
おすすめのポイント
函館の異国情緒ある街並みを背景に、過去と現在が交錯する切ないミステリー。
20年前に故郷と初恋の女性を捨てた刑事が、彼女の殺害事件をきっかけに帰郷し、封印した過去と対峙します。
ノワール特有の暗さはありますが、それ以上に「大人の恋愛小説」としてのロマンチシズムと哀愁が漂う作品です。
暴力よりも心理描写や感情の機微に重きが置かれた構成。
ミステリーファンだけでなく、ドラマチックな人間模様を楽しみたい方におすすめの本です。
次のような人におすすめ
- 切ない初恋や過去の因縁を描いたミステリーが好きな人
- 『白夜行』のような、重層的で感情揺さぶる物語を求めている人
- 函館という土地の空気感や旅情を感じたい人

6.『夜光虫』馳星周
おすすめのポイント
人間の精神が崩壊していく様を極限まで描いた、戦慄のサイコサスペンス。
台湾プロ野球界で八百長に手を染めた日本人投手が、殺人を犯し、さらに深みにハマっていく破滅の物語です。
救いのない展開ながら、その構成力と心理描写の凄まじさは圧巻で、「怖いもの見たさ」で読み進めてしまう中毒性があります。
著者の真骨頂である「ノワール」の深淵を覗くことができる中級者向けの一冊。
読後の衝撃は保証します。
次のような人におすすめ
- 人間の闇や狂気を描いた心理サスペンスに没頭したい人
- ハッピーエンドだけではない、心に爪痕を残す小説を読みたい人
- 台湾の裏社会やプロ野球の光と影というテーマに惹かれる人
7.『比ぶ者なき』馳星周
おすすめのポイント
馳星周が古代史最大の謎に挑んだ歴史大作です。
主人公は、日本という国家システムを作り上げた男・藤原不比等(ふじわらのふひと)。
現代のノワールで培った「権力闘争」や「組織論」の視点を古代に持ち込み、神話の裏側にあるドロドロとした政治劇をスリリングに描き出します。
教科書には載っていない歴史の裏側や、最強のフィクサーとしての不比等の孤独。
知的好奇心を刺激する、重厚なエンターテインメントです。
次のような人におすすめ
- 歴史小説や古代史ミステリーが好きな人
- 国家の成り立ちや権力闘争を描いた政治ドラマに関心がある人
- いつものミステリーとは一味違う、知的な読書体験を求めている人

8.『黄金旅程』馳星周
おすすめのポイント
競馬ファンなら誰もが知る名馬「ステイゴールド」をモデルにした、熱い再生の物語。
著者の故郷・北海道の牧場を舞台に、一度は人生に躓いた男たちが、気性の荒い一頭の馬と共に世界の頂点を目指します。
競馬界の厳しい現実(光と影)を描きつつも、読後には爽やかな感動とカタルシスが訪れます。
スポーツドラマとしての熱量と、人間ドラマとしての深みが両立。
読み応えのあるエンタメ作品を探している方に最適です。
次のような人におすすめ
- 競馬ファン、または「ステイゴールド」という馬を知っている人
- 挫折からの再起を描いた、胸が熱くなるドラマが好きな人
- 北海道の雄大な自然と、そこで生きる人々の営みに触れたい人
9.『漂流街』馳星周
おすすめのポイント
日本のブラジル人コミュニティを舞台に、マフィアやヤクザが入り乱れる抗争を描いたハード・ノワール。
第1回大藪春彦賞受賞作です。
凄まじいスピード感と暴力描写、そして日本社会における「異邦人」の孤独と怒りが強烈なエネルギーとなって放たれています。
まるでアクション映画を見ているかのような疾走感があり、著者のバイオレンスな側面を存分に堪能できる一冊。
社会の暗部をえぐり出す鋭い視点も健在です。
次のような人におすすめ
- ジョン・ウー映画のような激しいアクションや銃撃戦が好きな人
- 社会派のテーマを含んだ、骨太なバイオレンス小説を求めている人
- 日常を忘れて、スリリングな裏社会の物語に没入したい人

10.『生誕祭(上)』馳星周
おすすめのポイント
バブル経済の狂乱と、そこに群がる人間たちの欲望を描き切ったピカレスク(悪漢)ロマンの大作。
地上げ、株、絵画取引など、金のためなら手段を選ばない男女が、互いに騙し合い、裏切り合う究極のコンゲーム(信用詐欺)が展開されます。
登場人物は悪人ばかりですが、その欲望のエネルギーには圧倒的な引力があり、読むのを止められません。
バブルという時代が何だったのかを追体験できる、濃厚で中毒性の高い経済ノワールです。
次のような人におすすめ
- 『半沢直樹』のような金融エンタメや経済小説が好きな人
- 悪人たちが騙し合う、予測不能な心理戦を楽しみたい人
- 上下巻を通して描かれる、重厚長大な人間ドラマに浸りたい人
11.『不夜城』馳星周
おすすめのポイント
日本のミステリー界に衝撃を与えた伝説のデビュー作にして、馳星周の代名詞。
新宿・歌舞伎町を舞台に、日本と台湾のハーフである故買屋・劉健一が、マフィアの抗争を生き抜くために孤独な戦いを繰り広げます。
ヒリヒリするような緊張感、圧倒的な熱量、そして「誰も信用できない」世界観は、今読んでも色褪せません。
ノワール小説の金字塔であり、上級者向けではありますが、これを読まずして日本のハードボイルドは語れない傑作です。
次のような人におすすめ
- 日本のノワール・ハードボイルド小説の最高峰に挑戦したい人
- 映画化もされた伝説的な作品を読んでおきたい人
- 甘さのない、ハードでスリリングな大人のエンターテインメントを求めている人

12.『神の涙』馳星周
おすすめのポイント
北海道の厳しくも美しい自然を背景に、アイヌ文化と家族の確執、そして現代社会の闇が交錯する重層的なサスペンス。
アイヌの儀式用の刀をめぐる事件を軸に、失われた誇りやアイデンティティへの問いかけがなされます。
ミステリーとしての面白さはもちろん、著者が自身のルーツである北海道と真摯に向き合った作品であり、深い読解と余韻をもたらします。
物語の奥深さをじっくりと味わいたい読書家に捧げる、静謐かつ熱い一冊です。
次のような人におすすめ
- 『ゴールデンカムイ』などでアイヌ文化に関心を持った人
- 単なる謎解きだけでなく、社会的・文化的なテーマを含む小説が好きな人
- 冬の北海道の情景描写と、心に染みる人間ドラマを味わいたい人
まとめ:馳星周の世界は「愛」と「闇」のハイブリッド
直木賞作家としての優しい眼差しと、ノワールの覇者としての鋭い爪。
馳星周の小説はその両極端な魅力が同居しています。
まずは読みやすい『ゴールデン街コーリング』や『ソウルメイト』、『少年と犬』から。
そして、徐々に『夜光虫』や『不夜城』といった深淵なる世界へと足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
そこには、他の作家では決して味わえない、強烈な読書体験が待っています。
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