
ハードボイルドの巨匠、逢坂剛(おうさか・ごう、1943年~)。その作品世界は、社会現象を巻き起こした警察小説『百舌』シリーズだけに留まらない。
情熱的なスペインを舞台にした冒険活劇、抱腹絶倒のユーモアミステリー、侍が荒野を駆ける西部劇まで、驚くほど多彩な顔を持つ。
この記事では、どの作品から読めばいいか迷っている初心者から、新たな一冊を探す熱心なファンまで、必読の逢坂剛のおすすめ本を厳選して12作品ご紹介。
あなたの心を鷲掴みにする、運命の一冊がここにある。
1. 『百舌の叫ぶ夜』逢坂 剛
おすすめのポイント
社会現象を巻き起こした大ヒットドラマ『MOZU』の原点。この作品から逢坂剛を知った人も多いはず。
繁華街での爆破事件をきっかけに、公安警察のエース・倉木、叩き上げの刑事・大杉、そして謎の殺し屋「百舌」の運命が複雑に絡み合う。
当時まだ珍しかった公安警察の暗部を深く描き、息もつかせぬ展開で読者を圧倒する。
逢坂剛のハードボイルド小説を語る上で欠かせない、まさに伝説の始まりと呼ぶべき傑作。
次のような人におすすめ
- 骨太で重厚な警察小説やハードボイルドを読みたい人
- ドラマ『MOZU』のファンで、原作の持つオリジナルの熱量に触れたい人
- 伏線が張り巡らされた、一筋縄ではいかない物語に挑戦したい人

2. 『カディスの赤い星(上)』逢坂 剛
おすすめのポイント
逢坂剛の名を世に知らしめた、直木賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞の三冠に輝く記念碑的作品。
謎の日本人ギタリストの探索依頼が、スペイン内戦の秘密と国際的な陰謀へと繋がっていく壮大な冒険小説。
作者のスペインへの深い愛情と知識が、物語の隅々にまで溢れている。
企業間の駆け引き、歴史ミステリー、そして手に汗握るアクションが見事に融合した、エンターテインメントの全てが詰まった一冊。
次のような人におすすめ
- 東京からマドリードへ、世界を股にかけるスケールの大きな物語が好きな人
- 音楽や歴史といった文化的な要素が絡むミステリーに興味がある人
- 数々の賞に輝いた、日本冒険小説の金字塔を読んでみたい人
3. 『しのびよる月』逢坂 剛
おすすめのポイント
『百舌』のシリアスな世界とは180度異なる、抱腹絶倒のユーモア警察小説「御茶ノ水警察署シリーズ」の第一作。
幼少期の恨みを晴らしたい陰湿なエリート警部補・斉木と、その標的となった元ガキ大将の部下・梢田。
この凸凹コンビが繰り広げる絶妙な掛け合いが最高に面白い。
軽快なコメディタッチでありながら、ミステリーとしてのプロットもしっかりしており、逢坂剛の驚くべき作風の幅広さを体感できる人気シリーズ。
次のような人におすすめ
- 笑えるミステリーや、キャラクターが魅力的な警察小説を探している人
- ハードボイルドな作品の合間に、気軽に楽しめるエンタメ小説を読みたい人
- 上司と部下のユニークな関係性を描いた物語が好きな人

4. 『クリヴィツキー症候群』逢坂 剛
おすすめのポイント
作者の分身とも言われる、博識な私立調査員・岡坂神策が活躍するシリーズの一冊。
現代の殺人事件の容疑者が、突如「自分は1930年代に死んだソ連のスパイだ」と主張し始める。
岡坂は事件を解くため、スペイン内戦やスターリンの粛清といった暗い歴史の闇に分け入っていく。
歴史上の謎や心理現象が事件の鍵となる、非常に知的な連作ミステリー。歴史の知識が、現代の謎を解き明かす快感を味わえる。
次のような人におすすめ
- 歴史、特に20世紀のヨーロッパ史に興味があるミステリーファン
- 単なる犯人当てに留まらない、知的好奇心を刺激される物語が好きな人
- 蘊蓄(うんちく)が散りばめられた、大人のための上質なミステリーを読みたい人
5. 『相棒に気をつけろ』逢坂 剛
おすすめのポイント
小物の詐欺師である主人公が、美しくも全く信用できない詐欺の女王とコンビを組む羽目に。
悪徳地上げ屋などを相手に、二人が仕掛ける巧妙なコン・ゲーム(信用詐欺)を描いた痛快エンターテインメント。
テンポの良い会話と、二転三転する騙し合いのプロットが小気味よい。
逢坂剛の軽妙な筆致が光る、まさに『スティング』や『オーシャンズ11』のような世界観を楽しめる作品。
次のような人におすすめ
- 詐欺師や怪盗が活躍する、痛快なコン・ゲームものの映画や小説が好きな人
- ウィットに富んだ会話劇や、男女コンビの丁々発止のやり取りを楽しみたい人
- 難しいことを考えず、純粋にエンターテインメントとして楽しめる小説を求めている人

6. 『鏡影劇場(上)』逢坂 剛
おすすめのポイント
逢坂剛の作品群の中でも、特に実験的で文学的な香りが高いミステリー。
現代のギタリストが発見した古い楽譜に隠されていたのは、19世紀ドイツの作家E.T.A.ホフマンの手稿だった。
手稿を解読する現代の登場人物たちと、ホフマンの人生が鏡のように共鳴し合う、複雑で多層的な「物語の中の物語」。
フィクションと現実の境界が曖昧になる、パズルボックスのような読書体験が待ち受けている。
次のような人におすすめ
- ホルヘ・ルイス・ボルヘスやウンベルト・エーコのような、文学的遊戯に満ちた作品が好きな人
- 「入れ子構造」や「メタフィクション」といった、実験的な手法を用いたミステリーに挑戦したい人
- 音楽や古典文学がテーマの、知的に野心的な物語をじっくりと味わいたい人
7. 『燃える地の果てに(上)』逢坂 剛
おすすめのポイント
1966年にスペインで実際に起きた、水爆を搭載した米軍機墜落事故という衝撃的な史実がベース。
行方不明になった水爆をめぐる過去の事件と、30年後にその謎を追う現代の物語が交錯する。
歴史の闇に葬られた秘密と、冷戦下のスパイたちの暗闘。
そして、物語の最後に待ち受けるのは、日本ミステリー史に残ると言っても過言ではない、驚天動地の「叙述トリック」。
そのどんでん返しは、天才的か、アンフェアか。あなたの目で確かめてほしい。
次のような人におすすめ
- 「最後の一行で世界が変わる」ような、鮮やかなどんでん返しを体験したい人
- 実際に起きた事件を基にした、リアリティのあるフィクションが好きな人
- 冷戦時代のスパイ小説や、核の恐怖をテーマにしたサスペンスに惹かれる人

8. 『イベリアの雷鳴』逢坂 剛
おすすめのポイント
壮大な歴史スパイ小説「イベリア・シリーズ」の開幕を飾る一冊。
舞台は第二次世界大戦下の1940年、マドリード。
各国のスパイが暗躍する中立国スペインで、日系ペルー人の宝石商を名乗る男、北都昭平が歴史の渦に巻き込まれていく。
緻密な調査に裏打ちされた重厚な世界観は圧巻。
速い展開のスリラーというよりは、ケン・フォレットの作品のように、激動の時代の空気にじっくりと浸れる本格歴史諜報もの。
次のような人におすすめ
- アラン・ファーストやケン・フォレットのような、重厚な歴史スパイ小説のファン
- 第二次世界大戦期のヨーロッパの情勢や、スパイたちの暗躍に興味がある人
- 一気読みするのではなく、腰を据えて壮大な物語の世界に没入したい人
9. 『果てしなき追跡(上)』逢坂 剛
おすすめのポイント
「もしも新選組副長・土方歳三が箱館戦争で死なず、記憶を失ってアメリカに渡っていたら?」
という、大胆不敵な歴史ifから始まる冒険活劇。
侍の剣技と魂を持つ男が、無法の荒野・アメリカ西部を生き抜いていく。
日本の「武士」とアメリカの「フロンティア」という、二つの神話が見事に融合。
荒唐無稽な設定を圧倒的な筆力でエンターテインメントに昇華させた、最高の冒険小説。
次のような人におすすめ
- 歴史上の人物が別の運命を辿る「歴史ifもの」が好きな人
- 新選組、特に土方歳三のファンで、彼の新たな物語を読んでみたい人
- ジャンルの垣根を越えた、痛快なアクションや冒険活劇を求めている人

10. 『道連れ彦輔』逢坂 剛
おすすめのポイント
高潔な武士のイメージを覆す、型破りな時代小説。
主人公の鹿角彦輔は、腕は立つが権威を嫌い、金にがめつく、強い相手からは逃げることを信条とする無頼の浪人。
そんな彼が江戸の町で騒動に巻き込まれていくピカレスク・ロマン。
従来の時代小説のヒーロー像に飽きた読者におすすめ。
シリアスなアクションと軽妙なコメディのバランスが絶妙で、人間臭い彦輔の魅力に引き込まれること間違いなし。
次のような人におすすめ
- 忠義や名誉といったテーマから離れた、新しいタイプの時代小説を読みたい人
- 完璧なヒーローよりも、欠点だらけだが憎めないアンチヒーローが好きな人
- 笑いとスリルが同居する、痛快な歴史コメディを楽しみたい人
11. 『禿鷹の夜』逢坂 剛
おすすめのポイント
逢坂ノワールの極北。
「禿鷹(ハゲタカ)」の異名を持つ刑事・禿富は、ヤクザから金を巻き上げ、暴力を躊躇しない最凶の悪徳警官。
この小説の凄みは、決して主人公である禿富の視点や内面を描かない「省略の芸術」にある。
読者は彼の行動からのみ、この恐るべき男を推し量るしかない。
法も正義も超越した場所に立つ、捕食者のごときアンチヒーロー。
その圧倒的な暴力と恐怖は、一度読んだら忘れられない。
次のような人におすすめ
- 救いのないダークな世界観を持つ、純粋なノワール小説のファン
- 善悪の彼岸に立つ、強烈なアンチヒーローが登場する物語に惹かれる人
- 日本の警察小説が到達した、一つの極点を体験してみたい人
12. 『アリゾナ無宿』逢坂 剛
おすすめのポイント
日本のハードボイルドの巨匠が、アメリカの魂とも言える西部劇に正面から挑んだ本格ウェスタン。
孤児の少女、腕利きのガンマン、そして記憶を失った謎の日本人サムライ「サグワロ」。この奇妙なトリオが、賞金首を追ってアリゾナの荒野を旅する。
日本人作家が書いたとは思えないほどの本格的な雰囲気と、胸のすくようなアクション。侍とカウボーイが共闘する、夢のような冒険活劇。
次のような人におすすめ
- 映画でも小説でも、西部劇というジャンルを愛してやまない人
- 『果てしなき追跡』を読み、土方歳三(かもしれない男)のその後の物語を知りたい人
- 異なる文化を持つ者たちが絆を育んでいく、爽快な冒険物語が好きな人
まとめ:警察小説や探偵小説、冒険小説、時代小説も
逢坂剛が紡ぎ出す物語は、一つのジャンルには到底収まらない、広大で豊かな世界。
そこには、国家の陰謀に立ち向かう孤高の刑事もいれば、歴史の謎に挑む冒険家も、日々の暮らしに悪戦苦闘するおかしな侍もいる。
どの扉を開けても、あなたを夢中にさせる極上のエンターテインメントが待っている。
このリストを道標に、ぜひ逢坂剛ユニバースへの第一歩を踏み出してほしい。
きっと、あなたの読書人生をより豊かにする一冊が見つかるはずだ。
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