
『西の魔女が死んだ』で知られる作家、梨木香歩(なしき・かほ、1959年~)。
彼女が描く物語の奥底には、自然への深い畏敬や、傷ついた心を静かに回復させるための「個」の強さがあります。
小説のファンが次に手を伸ばすべきは、彼女の思想の源泉が詰まったエッセイや、想いを託した絵本や翻訳作品です。
日々の暮らしに疲れを感じたとき、自分だけの羅針盤を取り戻したいとき。
梨木香歩のエッセイや随筆は、読む人の心に静謐な隠れ家を作り出してくれます。
今回は、初心者でも読みやすく、かつ深く心に響くおすすめの本を、読みやすさの順にご紹介します。
1.『ペンキや』梨木香歩(絵本・文)
おすすめのポイント
父の跡を継ぎ、人々が最も望む色を探し出して塗る「ペンキや」の男の一生を描いた絵本です。
喜びも悲しみも、怒りや諦めさえもすべて混ぜ合わせた「ユトリロの白」という色の深みに、働くこと、生きることの尊さが静かに浮かび上がります。
チェコ在住の画家・出久根育(でくね・いく)による異国情緒あふれる美しい挿絵が、物語にファンタジックな奥行きを与えています。
次のような人におすすめ
- 「働くこと」の尊さや、職人の静かな生き方に感銘を受けたい人
- 出久根育の描く、幻想的でどこか切ない美しい絵の世界に浸りたい人
- 人生の機微が詰まった、大人が読むにふさわしい深い絵本を探している人

2.『森のはずれの美術館の話』梨木香歩(絵本・文)
おすすめのポイント
「リサとガスパール」の画家ゲオルグ・ハレンスレーベンと梨木香歩による、異色のコラボレーション絵本です。
舞台は上野の国立西洋美術館。
建物そのものが持つ「記憶」と、かつてそこが森であったことへの回帰を描くファンタジー。
建築家ル・コルビュジエも登場し、美術館という空間を新しい視点で楽しむための鍵となるような作品です。
次のような人におすすめ
- 美術館や建築が好きで、アートな世界観に浸りたい人
- 子供と一緒に読めて、大人も深く考えさせられる絵本が欲しい人
- 上野の森や国立西洋美術館に特別な思い出がある人
3.『ブランコ』梨木香歩(絵本・翻訳)
おすすめのポイント
海を見渡す丘の上に佇む一台の「ブランコ」を主人公にした翻訳絵本です。
動かないブランコが、移ろいゆく季節や訪れる人々をただ静かに見つめ続ける姿は、梨木香歩が大切にする「定点観測」という思想と美しく響き合います。
ドイツの人気作家ブリッタ・テッケントラップの幻想的な絵と、梨木香歩の端正な日本語訳が織りなす世界は、大人の心にこそ深く染み入る一冊。
次のような人におすすめ
- 美しい絵と言葉に癒やされたい、大人の絵本を探している人
- 忙しい日常から離れて、静かな時間の流れを感じたい人
- 大切な友人への、心温まるギフト用の本を探している人

4.『ある小さなスズメの記録』梨木香歩(翻訳)
おすすめのポイント
第二次世界大戦下のロンドンで、空襲の恐怖に耐えながら12年間を共に生きた、一人の婦人とスズメの実話。
単なるペットの飼育記録を超え、命の尊厳と誇り高き魂の交流が描かれます。
梨木香歩が「翻訳せずにはいられなかった」と語る名著であり、巻末の訳者あとがきが読者の涙を誘うことでも知られる、珠玉のノンフィクションです。
次のような人におすすめ
- 動物との絆を描いた、泣けるノンフィクションを探している人
- ペットロスを経験し、命との向き合い方を模索している人
- 戦時下の日常における、ささやかで強い希望の物語を読みたい人
5.『春になったら莓を摘みに』梨木香歩
おすすめのポイント
著者のイギリス留学時代の回想録であり、『西の魔女が死んだ』の祖母のモデルとも言われる下宿の女主人、ウェスト夫人が登場します。
人間関係において「理解はできなくても、受け容れることはできる」という達観した姿勢や、傷つかないために「鎧」をまとうことの是非など。
生きづらさを抱える現代人に多くの気づきを与えてくれる、エッセイの原点的一冊。
次のような人におすすめ
- 『西の魔女が死んだ』のおばあちゃんの実在モデルに興味がある人
- 人間関係の距離感に疲れ、自分を守る方法を知りたい人
- イギリスの生活文化や、静かで自律した生き方に憧れる人

6.『不思議な羅針盤』梨木香歩
おすすめのポイント
大人になるにつれて閉じてしまった五感を、もう一度世界に対して開くための練習帳のようなエッセイ集です。
植物を枯らしてしまう失敗談や、生き物を飼うことへの恐れなど、著者の等身大の「弱さ」が率直に語られます。
論理や効率ばかりが求められる社会で、直感という内なる羅針盤を取り戻したいと願う読者に、優しく寄り添います。
次のような人におすすめ
- 感性が鈍っていると感じ、五感を研ぎ澄ませたい人
- 自分の弱さを責めがちで、自己肯定感を高めたい人
- 日常のふとした瞬間に、世界の不思議を感じたい人
7.『ぐるりのこと』梨木香歩
おすすめのポイント
足元の植物や虫、庭の気配など、自分の「ぐるり(身の回り)」を丁寧に観察し、記述した随筆集。
「雑草」という名前の草は存在せず、一つ一つに固有の名前と宇宙があることを教えてくれます。
また、日本社会特有の同調圧力や「群れ」への違和感についても静かに言及しており、個として生きるための思索が詰まっています。
次のような人におすすめ
- 丁寧な暮らしやガーデニングが好きで、日常の解像度を上げたい人
- 集団行動が苦手で、同調圧力に息苦しさを感じている人
- 足元の小さな自然に目を向け、哲学的な思索を楽しみたい人

8.『炉辺の風おと』梨木香歩
おすすめのポイント
コロナ禍の中、八ヶ岳の山小屋に籠もり、自然と対峙した日々を綴ったエッセイ。
人間社会の混乱には無関心に続く自然の営みこそが、逆説的に人の心を救うという視点が描かれます。
孤独であることは寂しいことではなく、豊かな内省の時間であるという「孤独の再定義」は、一人の時間を大切にしたい現代人へのエールとなります。
次のような人におすすめ
- 山小屋暮らしや田舎での静かな生活に憧れている人
- 一人でいることの豊かさや、孤独を楽しむ流儀を知りたい人
- 社会の喧騒から離れ、精神的な支柱を求めている人
9.『水辺にて』梨木香歩
おすすめのポイント
カヌーを漕ぎ出し、水面という「境界線」に身を置く体験を綴った随筆集です。
陸(日常)から離れ、水の上で風に吹かれながら本を読む時間は、まさに至福の孤独。
社会的な役割やしがらみから解放され、意識と無意識のあわいを漂うような読書体験は、心の澱を洗い流すデトックスのような効果をもたらします。
次のような人におすすめ
- 水辺の風景が好きで、静かなアウトドアやカヌーに関心がある人
- 心が疲れていて、日常から少しだけ逃避したい人
- 境界線や「あわい」の感覚に惹かれる、思索好きな人

10.『エストニア紀行 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦』梨木香歩
おすすめのポイント
なぜその場所へ行くのか、明確な理由もないまま導かれるように旅したエストニアの紀行文。
北欧の森の奥深く、精霊の気配やアニミズム、そして悲劇の歴史を越えた「歌う革命」の記憶を辿ります。
効率的な観光旅行とは対極にある、直感に従って魂の故郷を探すような旅のスタイルは、読む人を遠い異国の森へと誘います。
次のような人におすすめ
- 北欧の文化や自然、ケルトやアニミズムに関心がある人
- 自分探しの旅や、一人旅の道連れになる本を探している人
- 森の静けさや、目に見えない気配を感じる物語が好きな人
11.『やがて満ちてくる光の』梨木香歩
おすすめのポイント
作家生活25周年を記念して編まれた一冊。
言葉とは何か、物語を書く意味とは何かを問い直します。
写真家・星野道夫への共鳴や、人生における喪失と再生がテーマ。
深い悲しみの底にあっても、時間はかかっても必ず光は満ちてくるという希望が込められています。
長く手元に置いて、折に触れて読み返したいエッセイです。
次のような人におすすめ
- 星野道夫の世界観が好きで、悠久の時間を感じたい人
- 大切なものを失った悲しみを抱え、癒やしを求めている人
- 人生の岐路に立ち、深く長く心に残る言葉を探している人

12.『小さな神のいるところ』梨木香歩
おすすめのポイント
気候変動や変わりゆく世界の中で、漂流する小さな命や気配(小さな神)に目を向けたエッセイ集。
失われゆく日本の風景への鎮魂と、それでも続いていく生命の営みへの祈りが綴られています。
人間社会の時間軸とは異なる「もう一つの時間」を感じることは、不確実な未来を生きる私たちにとって大きな救いとなるはずです。
次のような人におすすめ
- 環境問題や気候変動について、文学的な視点から考えたい人
- 最新の梨木香歩の思想に触れ、今の時代を生きる知恵を得たい人
- 効率化する社会に疲れ、ゆったりとした時間を取り戻したい人
まとめ:静謐な言葉の森へ踏み入る
梨木香歩の作品は、声高に主張するのではなく、読む人の隣に静かに座り、焚き火を見つめるような安心感を与えてくれます。
日々の忙しさに追われて自分の声が聞こえなくなったとき、これらの本は、本来の自分へと戻るための「扉」となってくれるはずです。
まずは直感で気になった一冊から、その静謐な森へと足を踏み入れてみてください。
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