
仕事や勉強に追われ、重厚な長編小説を読む気力がない。
それでも、知的で笑える「何か」を脳が求めている。そんな現代人の渇きを癒やす特効薬、それが清水義範(しみず・よしのり、1947年~)の小説。
教育制度、言語、歴史、そして私たち自身の思い込み。
あらゆる権威を「パスティーシュ(文体模倣)」という手法で鮮やかに笑い飛ばす作品群は、まさに大人のための極上のエンターテインメント。
本記事では、数ある作品の中から、初心者でもサクサク読めて知的好奇心が刺激される清水義範のおすすめの本を12冊厳選して紹介。
東大入試より難しい(?)「国語の問題」の解き方から、名古屋が首都になるパラレルワールドまで。
読み終えた瞬間、あなたの見ている世界が少しだけズレて、面白く見えてくる体験を約束する。
1. 『国語入試問題必勝法(新装版)』清水義範
おすすめのポイント
「作者の気持ちを答えよ」という理不尽な設問に苦しめられた全受験生の溜飲を下げる、清水義範の代表的傑作。
問題文を一切読まずに、選択肢の長さや道徳的観点だけで正解を導き出す「必勝法」は、あまりにバカバカしく、しかし恐ろしいほど論理的。
教育制度の矛盾を鋭く突きながら、最後には爆笑と爽快感が残る短編集。
認知症の恐怖を描いたシリアスな名作「靄の中の終章」も併録されており、作家の振り幅の広さを体感できる一冊。
次のような人におすすめ
- 国語のテストや入試制度に疑問やトラウマを持ったことがある人
- 短時間でスカッと笑える、読みやすい短編小説を探している人
- 「パスティーシュ(模倣)」という文学手法の入門書を読みたい人

2. 『単位物語』清水義範
おすすめのポイント
1メートルは誰が決めたのか?
秒とは何か?
普段疑うことのない科学的常識や「単位」をテーマに、文系的な屁理屈とナンセンスな想像力で再定義を試みる連作短編。
教科書のような真面目な文体で語られるデタラメな科学講義は、読むほどに脳が混乱する快感を伴う。
「科学は苦手」という人にこそ読んでほしい、知的遊戯に満ちたおすすめ本。
当たり前の基準が揺らぐ面白さがここに。
次のような人におすすめ
- 理系ネタを文系的ユーモアで料理した知的雑学本が好きな人
- 「科学的根拠」という言葉を聞くと、つい身構えてしまう人
- 隙間時間に読める、教養(のようなもの)が詰まった本が欲しい人
3. 『お金物語』清水義範
おすすめのポイント
人が生まれてから死ぬまで、常につきまとう「お金」という魔物。
遺産相続のドタバタ劇から、他人の給料計算に執着する男の悲哀まで、資本主義社会の滑稽な断面を切り取った経済ユーモア小説。
金銭に振り回される人間たちの姿は、哀しくもどこか愛おしい。
説教臭い経済書を読むよりも、本書を読むほうがよほど「お金と幸せ」の本質に迫れるかもしれない。
大人の社会科見学としても優秀な一冊。
次のような人におすすめ
- 経済やお金の話に関心があるが、難しい専門書は読みたくない人
- 遺産相続や冠婚葬祭など、お金にまつわる人間ドラマを覗き見たい人
- 社会の仕組みを皮肉った、ブラックユーモアのある小説が好きな人

4. 『スシとニンジャ』清水義範
おすすめのポイント
日本に憧れて来日したアメリカ人青年ジム・ストーニー君の視点を通して、現代日本の奇妙な風習を描き出す異文化交流コメディ。
外国人が抱く「誤解」と、日本人が無意識に行っている「建前」が衝突するとき、爆発的な笑いが生まれる。
インバウンド全盛の今現在だからこそ、外部の視点で自分たちの文化を客観視できる本書の価値は高い。
「クールジャパン」の正体を笑い飛ばす、エスプリの効いた作品。
次のような人におすすめ
- 外国人から見た「不思議な国・ニッポン」という視点に興味がある人
- 異文化コミュニケーションにおける「誤解」や「ズレ」を楽しめる人
- 軽い読み口で、日本文化論的な発見も得られる本を探している人
5. 『ビビンパ』清水義範
おすすめのポイント
表題作は、ある家族が焼肉屋で食事をするだけの物語。
しかし、網の上の肉を誰が取るか、タレはどうするかといった些細な攻防が、まるでスポーツ実況や心理サスペンスのような緊迫感で描写される。
日常の何気ない風景を過剰な解像度で描くことで、異常な面白さを生み出すテクニックは圧巻。
他にも、年賀状の文面だけで人生を描く「謹賀新年」など、形式の実験と笑いが融合した短編集。
次のような人におすすめ
- ありふれた日常が、視点を変えるだけでドラマチックになる体験をしたい人
- 焼肉奉行や鍋奉行など、食事の場の人間関係に敏感な人
- 短い時間で読めて、形式自体に驚きがあるユニークな小説を好む人

6. 『蕎麦ときしめん』清水義範
おすすめのポイント
東京の「蕎麦」と名古屋の「きしめん」。
麺の形状の違いから、両都市の人間性や文化の違いを論証しようとする表題作は、パスティーシュ(論文模倣)文学の金字塔。
もっともらしい理屈を並べ立てながら、結論はバカバカしい方向へ突き進む「知的な嘘」の快感が味わえる。
昨今の地方ディスりや県民性ブームの先駆けとも言える作品であり、名古屋文化への愛と揶揄が絶妙なバランスで同居している。
次のような人におすすめ
- 名古屋出身者、または地方文化や県民性の違いに興味がある人
- 「もっともらしい顔をして嘘をつく」知的なパロディを楽しみたい人
- 司馬遼太郎風の文体で「猿蟹合戦」を描くなど、文体模写に笑いたい人
7. 『袖すりあうも他生の縁』清水義範
おすすめのポイント
パロディ作家としての鋭さだけでなく、市井の人々を温かく見つめる「人情小説家」としての側面が光る連作短編集。
熟年離婚の危機や親族間の騒動など、身近なトラブルを題材にしながら、人と人との縁の不思議さをコミカルかつ感動的に描き出す。
読後には心が軽くなるような温かさがあり、毒のある笑いが苦手な人にも自信を持っておすすめできる良質なホームドラマ。
次のような人におすすめ
- 笑いだけでなく、読後にほろりと来るような人情物語を求めている人
- 家族関係や夫婦の機微を描いた、共感性の高い小説が読みたい人
- 日常の疲れを癒やしてくれる、穏やかで面白い本を探している人

8. 『永遠のジャック&ベティ』清水義範
おすすめのポイント
かつて英語教科書の定番だったキャラクター、ジャックとベティが中年になって再会。
「This is a pen.」直訳調の不自然な日本語で繰り広げられる会話劇は、シュールでありながら、かつての英語教育への強烈な皮肉とノスタルジーを感じさせる。
言葉が思考を規定するというテーマを笑いに包んだ表題作ほか、ワープロ(死語?)にハマる老人を描く作品など、時代の空気をパッケージした傑作選。
次のような人におすすめ
- 昔の英語教科書に懐かしさや、ある種の「恨み」を感じている大人
- 言葉遊びや、言語そのものをネタにした知的なユーモアが好きな人
- 昭和から平成にかけてのテクノロジーや文化の変遷を振り返りたい人
9. 『深夜の弁明』清水義範
おすすめのポイント
締め切りを守れない作家が、編集者へ向けて書いた長文の言い訳。
それがいつしか規定枚数を満たす「作品」になってしまうという、メタフィクションの傑作。
人間のダメな部分、弱さを肯定するかのような開き直りのエネルギーに満ちている。
また、新聞の読者投稿欄が炎上していく様を描いた「コップの中の論戦」は、現代のSNS社会を予見したかのようなリアリティがあり、今こそ再評価されるべき内容。
次のような人におすすめ
- ついつい言い訳をしてしまう、自分の弱さに心当たりがある人
- SNSでのレスバトルや、議論が噛み合わない状況を皮肉った笑いが好きな人
- 「書くこと」そのものをテーマにした、技巧的な小説を楽しみたい人

10. 『迷宮』清水義範
おすすめのポイント
記憶喪失の男が、ある殺人事件に関する大量の資料を読み解いていく実験的ミステリー。
手記、調書、ゴシップ記事など、提示されるテキストはすべて「信頼できない語り手」によるもの。
読めば読むほど真相が藪の中へ消えていく構成は、まさにタイトルの通り「迷宮」。
パロディで培った筆力をシリアスな謎解きに応用した、読者参加型の知的興奮に満ちた一冊。
次のような人におすすめ
- 普通のミステリーでは満足できない、どんでん返しや考察が好きな人
- 「信頼できない語り手」や叙述トリックなど、凝った構成の小説を探している人
- 笑いを封印した清水義範の、作家としての恐ろしい筆力を目撃したい人
11. 『金鯱の夢』清水義範
おすすめのポイント
もしも徳川ではなく豊臣が天下を取り、名古屋が日本の首都になっていたら?
歴史のIF(もしも)を壮大なスケールと緻密な考証(と妄想)で描く架空戦記。
標準語が名古屋弁となり、歴史上の偉人たちがコテコテの方言で喋り倒す世界観は圧巻。
単なる一発ネタではなく、言語と権力の構造を鋭く描いたSFとしても評価が高い。
名古屋愛が暴走した、パラレルワールド大河ロマン。
次のような人におすすめ
- 歴史シミュレーションや「架空戦記」ジャンルの小説が好きな人
- 名古屋という都市が持つポテンシャル(とアクの強さ)を感じたい人
- 「歴史がもし変わっていたら」という空想にワクワクできる人

12. 『神々の午睡(上)』清水義範
おすすめのポイント
著者の持つ豊富な歴史・神話の知識が結実した、幻想的かつ本格的な歴史ミステリー。
パロディで見せる軽妙さは影を潜め、静謐で謎めいた物語世界が展開される。
現実と幻想の境界が曖昧になるような読書体験は、清水義範という作家の底知れぬ教養と構成力を証明している。
笑いよりも、深い知的な没入感を求める読者に贈る、隠れた名著。
次のような人におすすめ
- 神話や歴史の闇を扱った、重厚で雰囲気のあるミステリーを好む人
- パロディ作家としての清水義範しか知らず、その「本気」を見てみたい人
- 秋の夜長にじっくりと腰を据えて読める、読み応えのある長編を探している人
まとめ:日常を「笑い」で脱構築する読書体験を
清水義範の小説は、私たちが普段「正しい」と信じている常識や権威を、ユーモアという武器で鮮やかに解体してくれます。
その読後感は、単なる暇つぶしを超え、凝り固まった頭をほぐす「知的マッサージ」のような効能があります。
まずは『国語入試問題必勝法』や『単位物語』といった短編集から手に取り、その独特な「騙され心地」を味わってみてください。
きっと、退屈だった日常が、ネタに満ちた面白い世界へと変わって見えるはずです。
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