
書籍紹介
- 知能が高い人々が過ちを犯す主な原因は、知的謙虚さ・好奇心・感情認識の欠如と、合理性障害・先入観・動機づけられた推論など。
- 個人が罠を回避するためには、身体感覚を捉えて感情を制御し、情報の精査を習慣化し、しなやかなマインドセットが必要。
- 効果的な学習には、好奇心を活用してドーパミンを分泌させ、分散学習・想起練習・混ぜ学習などを意図的に取り入れる。
- 組織レベルでは、機能的愚鈍や結果バイアスを防ぎ、失敗へのこだわり・現場の声への敬意・安全第一の理念を持つ体制の構築が重要。
デビッド・ロブソンの略歴・経歴
デビッド・ロブソン(David Robson)
イギリス出身の科学ジャーナリスト。
ケンブリッジ大学を卒業(数学専攻)。ニュー・サイエンティスト誌の特集担当編集者、BBC Futureのシニア・ジャーナリストを経て、独立。ガーディアン紙、アトランティック誌などに寄稿。人間の脳、身体、行動が専門分野。
『知性の罠 なぜインテリが愚行を犯すのか』の目次
はじめに
第1部 知能の落とし穴――高IQ、教育、専門知識がバカを増幅する
第1章 IQ190以上の神童の平凡なる人生――知能の真実
第2章 天才はなぜエセ科学を信じるのか――「合理性障害」の危険性
第3章 専門家が判断ミスを犯す根本理由
第2部 賢いあなたが気をつけるべきこと
第4章 優れた判断力、知的謙虚さ、心の広さ
第5章 なぜ外国語で考えると合理的判断が下せるか――内省的思考
第6章 真実と嘘とフェイクニュース
第3部 実りある学習法――「根拠に基づく知恵」が記憶の質を高める
第7章 なぜ賢い人々は学ぶのが下手なのか―硬直マインドセット
第8章 努力に勝る天才なし――賢明な思考力を育む方法
第4部 知性ある組織の作り方
第9章 天才ばかりのチームは生産性が下がる
第10章 バカは野火のように拡がる――組織が陥る「機能的愚鈍」
おわりに
謝辞
用語集
『知性の罠 なぜインテリが愚行を犯すのか』の概要・内容
2025年4月3日に第一刷が発行。日経ビジネス人文庫。429ページ。
副題は「なぜインテリが愚行を犯すのか」。
2020年7月に日本経済新聞社から刊行された単行本『The Intelligence Trap(インテリジェンス・トラップ)なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか』を改題、文庫化したもの。
原題は2019年3月7日に刊行された『The Intelligence Trap: The ultimate guide to help you revolutionise your thinking, make wiser decisions and transform your life』。
翻訳は、土方奈美(ひじかた・なみ、1971年~)。 東京都の生まれで慶應義塾大学文学部を卒業後、日本経済新聞社にて記者を務め、独立。米モントレー国際大学院で翻訳修士号を取得。米国公認会計士、ファイナンシャル・プランナーでもある人物。
『知性の罠 なぜインテリが愚行を犯すのか』の要約・感想
- 知性の罠を暴く著者について
- 知性を適切に制御するブレーキの必要性
- 学力テストでは測れない思考の柔軟性
- 先入観の組み換えと思考の罠
- 多様な環境に適応する文化的知能
- 合理性障害とギャンブラーの誤謬
- 専門家が陥る罠と無意識の恐ろしさ
- 学力と人生の豊かさは比例しない
- 身体感覚を捉えて感情を抑制する
- 誤情報に対処するための適切な質問
- 好奇心が記憶力と学習を強化する
- しなやかな精神がもたらす学習効果
- 望ましい困難が記憶の質を高める
- エラルキーがもたらす組織の光と影
- 機能的愚鈍と結果バイアスの危険性
- リスク許容度を下げる安全第一の精神
- 成功への慢心と信頼性の高い組織
- まとめ:知性の罠を回避して豊かな人生を
知能が高い人間が、なぜ取り返しのつかないような致命的な過ちを犯してしまうのだろうか。
この問いは、さまざまな分野においても、常に中心的な課題として議論されてきたものである。
私たちが歴史を振り返れば、極めて優秀な頭脳を持った国家の指導者や企業の経営陣が、誰の目にも明らかにおかしな決断を下し、破滅への道を歩んでいった事例は枚挙にいとまがない。
知能指数が高いことと、現実世界において賢明な判断を下せることの間には、決して埋めることのできない深い溝が存在しているように思える。
その溝の正体を解き明かし、人間の思考が持つ危うさと、それを回避するための具体的な方法論を提示してくれているのが、デビッド・ロブソン(David Robson)が執筆した書籍である。
原題を日本語に訳した『知性の罠 なぜインテリが愚行を犯すのか』という題名が示す通り、本書は私たちの知性が抱える致命的な欠陥に鋭く切り込んでいる。
知性の罠を暴く著者について
本書の著者であるデビッド・ロブソンは、イギリス出身の科学ジャーナリストである。
彼はケンブリッジ大学で数学を専攻して卒業した後、科学雑誌の編集者や国際的な放送局のシニア・ジャーナリストを経て独立し、人間の脳や身体、行動を専門分野として数多くの記事を執筆している。
翻訳を担当したのは、翻訳家の土方奈美(ひじかた・なみ、1971年~)である。
経済紙の記者を経てアメリカの大学院で翻訳修士号を取得し、公認会計士やファイナンシャル・プランナーの資格も持つという多彩な経歴の持ち主である。
知性を適切に制御するブレーキの必要性
本書の冒頭では、知能というものを自動車のエンジンに例えて説明している。
知能が高いということは、それだけ馬力のある強力なエンジンを積んでいるということを意味する。
しかしその知力を適切に使いこなすには、チェック&バランス(抑制と均衡)も必要だ。それがなければ、知能が高くなるほど、思考は偏るかもしれない。(P.11「はじめに」)
知能が馬力のあるエンジンであるならば、それを適切に使いこなすためには、ブレーキやハンドル、速度計、さらには正しい目的地へと導くための地図が不可欠である。
もし、単に馬力のあるエンジンだけを搭載して、ブレーキが効かない車を走らせたらどうなるかは想像に難くない。
弱い馬力の車であれば、壁にぶつかってもちょっとした事故で済むかもしれないが、強い馬力を持っているがゆえに、制御を失った時の被害は壊滅的な大事故になってしまうのである。
知能が高い人間が犯す失敗が、往々にして周囲を巻き込む大惨事となる理由は、まさにこの強力なエンジンに見合ったブレーキを備えていないからだと言える。
学力テストでは測れない思考の柔軟性
それでは、知性を正常な軌道に留めておくためのブレーキとは、具体的にどのような能力なのだろうか。
認知反射に加えて、インテリジェンス・トラップを回避するのに重要な特性として、知的謙虚さ、積極的なオープンマインド思考、好奇心、優れた感情認識、しなやかマインドセットなどが挙げられる。(P.12「はじめに」)
これらの特性を備えていることによって、知性が暴走して知性の罠に陥ることを防ぎ、人生における大事故を防止することに繋がる。
柔軟な姿勢や広く見聞を集める態度が重要であることは、一般的な感覚としても推測しやすい。
しかし、好奇心と優れた感情認識という要素が含まれている点は、非常に見逃せない重要なポイントである。
自分の感情の揺れ動きを正確に認識して制御できるかどうか、そして未知のものに対して好奇心を抱けるかどうかが、知性の暴走を止める鍵になるというのは深い洞察である。
インテリジェンス・トラップから身を守る特性うち、標準的な学力テストで測定できるものは1つもない。(P.13「はじめに」)
この事実は、私たちが受けてきた教育の評価基準がいかに偏ったものであるかを示している。
学力テストで高い点数を取れる能力と、知性の罠から逃れて賢く思考する能力とは、完全に別物であるという事実は驚きである。
少なくとも何らかの相関関係くらいはありそうなものだと考えてしまうが、実際には全く異なる能力群によって構成されているのだ。
このことは同時に、日々の訓練によって、誰もが後天的に賢く思考する方法を身につけられるという希望に繋がる話でもある。
先入観の組み換えと思考の罠
著者は本書を執筆する上で、非常に明確な問いを設定している。
本書を執筆するうえで、私は3つの問いに集中した。「なぜ賢い人々が愚かな行動をとるのか」「こうした過ちは、どのような能力や性質が欠如しているために起こるのか」「どうすれば、過ちを防ぐために必要な資質を伸ばすことができるのか」だ。(P.16「はじめに」)
この3つの問いこそが本書を貫く基本軸であり、読者はこの問いに対する答えを探求しながら、膨大な情報量の中を読み進めていくことになる。
その探求の出発点として、アメリカの心理学者であるウィリアム・ジェームズ(William James、1842年~1910年)の言葉が紹介されている。
19世紀の偉大な心理学者、ウィリアム・ジェームズはこう言ったという。「たいていの人は、モノを考えているつもりで、先入観を組み換えているだけに過ぎない」。(P.18「はじめに」)
これは人間の思考の本質を突いた、非常に鋭い指摘である。
多くの人は新しいアイデアを生み出しているつもりでも、実際には自分が過去から持ち越してきた先入観や偏見のブロックを、ただ単に組み替えて遊んでいるだけなのかもしれない。
もしそうであるならば、私たちが日常的に行っている思考とは一体何なのか、根源的な問いを突きつけられることになる。
多様な環境に適応する文化的知能
本書の第1部(第1章、第2章、第3章)では、知能の落とし穴について深く掘り下げていく。
知能が高いことや、高度な教育を受けて専門知識を持っていることが、逆に愚かさを増幅させてしまうメカニズムが明かされる。
「CQ」はすでに、さまざまな成功の指標と結びついていることがわかっている。たとえば海外に派遣された社員がどれくらい早く新たな生活に適応するか、国際的な営業チームの成績、参加者の交渉力などを予測するのに有効だ。(P.54「第1章 IQ190以上の神童の平凡なる人生」)
ここで登場する「CQ」とは、Cultural Quotient(Cultural intelligence)で、文化的知能と呼ばれるものであり、多様な文化や環境に対して適応する能力を指している。
自分とは異なる価値観や文化を頭で理解して許容することはできても、そこに自分自身の行動や思考を適応させるのは、実際にやってみると極めて難しい。
海外旅行や異文化交流などの現場で具体的な経験を積み、意図的に適応していく練習を繰り返さなければ、このCQを高めることはできないのだろう。
環境の変化が激しい現代において、従来のIQよりもこのCQの方が、生き抜くための強力な武器になることは想像に難くない。
合理性障害とギャンブラーの誤謬
高い知能を持っているからといって、確率や統計の世界で正しい判断ができるとは限らない。
ぜひ覚えておいていただきたい。ルーレットに賭けるときは、自分の方がルーレットより賢いなどと思わないことだ。(P.75「第2章 天才はなぜエセ科学を信じるのか」)
コイントスで表が連続して出ている場合に、そろそろ裏が出るはずだと根拠もなく考えてしまう認知バイアスは、一般的にギャンブラーの誤謬と呼ばれている。
ルーレットの一回ごとの結果は、過去の結果とは全く無関係に独立した確率事象であるにも関わらず、人間の脳は過去の結果の偏りを将来の結果に強引に結びつけてしまう。
驚くべきことに、学業の成績が優れている人物の方が、このギャンブラーの誤謬にやや陥りやすい傾向があるというのだ。
ルーレットは単なる物理的な確率の現象に過ぎないため、こちら側の人間がどれほど頭が良いかといったことは結果に一切関係しない。
物事はただ純粋な確率的結果に収斂されるだけであるという冷徹な事実を受け入れる思考こそが、罠に陥らないために大切なのである。
ここまで、知能が高い人々が愚かな行動に走る主な原因を3つ見てきた。第一に、人生で起こる問題に対処するのに不可欠な、創造的知能や実務的知能が欠けていること。第二に、「合理性障害」があり、偏った直感的判断を下してしまうこと。第三に、「動機づけられた推論」によって、自らの立場と矛盾する証拠を否定するために優れた知能を使ってしまうことだ。(P.103「第2章 天才はなぜエセ科学を信じるのか」)
本書において定義されている合理性とは、与えられた資源をもとに目的達成に向けて最適な判断を下す能力や、証拠や論理に基づいて健全な推論を行う能力のことである。
この真の意味での合理性は、抽象的な思考力を測定する一般的な学力検査とは、全くと言っていいほど相関性がないという。
知能が高いのに合理的な判断ができないというこのミスマッチの状態を、著者は合理性障害と呼んでいる。
つまり、現実を見据えることなく、複合的な視点を持たずに、自分の考えを肯定する情報ばかりを集め、相手を否定するための論理ばかりを組み立ててしまうことによって、愚かな行動に突き進んでしまうということだ。
皮肉なことに、情報収集能力や論理構成力が人一倍優れているという知能の高さそのものが、逆にその偏った推論を強化し、取り返しのつかない悪い結果を招いてしまうのである。
専門家が陥る罠と無意識の恐ろしさ
知性の罠は、特定の分野に精通した専門家にこそ牙を剥く。
専門家を専門家たらしめている基盤、彼らが職務を効率的かつ迅速にこなすための基本的要素が、落とし穴となることもある。(P.112「第3章 専門家が判断ミスを犯す根本理由」)
これは認知神経科学者であるイティエル・ドロール(Itiel Dror)の発言である。
専門家が圧倒的な知識と経験を持っているというメリットと、その知識ゆえに盲点が生じるというデメリットは完全に表裏一体の関係にある。
むしろ、専門家であるからこそ、様々な危うさを内部に抱え込んでしまっているという事実は恐ろしい。
基本的に専門家の判断は正しいことが多いが、専門家が自信過剰になって間違った判断を下した時には、社会に甚大な被害をもたらすことになる。
原子力産業は「経験による作業の無意識化」を考慮に入れている数少ない産業の1つだ。検査員が自動操縦モードで作業するのを防ぐため、安全性確認の手順を定期的に入れ替えている発電所もある。(P.132「第3章 専門家が判断ミスを犯す根本理由」)
一般的に、素人ではなく専門家が作業するのだから安全だろうと考えがちだが、工学的な安全設計の観点からは真逆の発想が必要となる。
プロフェッショナルであればあるほど、毎日の作業を意識的な確認ではなく無意識の自動操縦モードで行ってしまい、その結果として手順を簡略化したり、省いたりして大きなミスを起こしてしまう可能性が高まる。
専門家でも安全に作業を遂行できるように、定期的に確認手順を意図的に変更して、無意識の作業を強制的に意識化させるという発想は素晴らしい。
人間の知性の限界をシステムで補うという、極めて現実的で有効な対策であると言えるだろう。
学力と人生の豊かさは比例しない
第2部(第4章、第5章、第6章)では、賢い人間が気をつけるべき具体的な心構えや思考法について語られている。
グロスマンは「知能と賢明な思考力との相関はごくわずかだ。知能で説明できる差異はせいぜい5%以下、決してその以上ではない」と語る。(P.155「第4章 優れた判断力、知的謙虚さ、心の広さ」)
ここで登場するグロスマンとは、心理学者のイゴール・グロスマン(Igor Grossmann)のことである。
彼が言う知能とはいわゆるIQのことであり、賢明な思考力とは、破産や離婚などの致命的な失敗を避け、満足のいく豊かな人生を送るための総合的な考え方のことである。
学校の勉強ができることと、人生を豊かに生きるための力は、驚くほど無関係の別物であるという残酷な真実が提示されている。
両者の間には因果関係がないどころか、相関関係すらもわずか5パーセント以下しか存在しないという事実は、現代の教育制度のあり方に一石を投じるものである。
「周囲に自分は何でも知っていると思わせ、何でも説明しようとする者は、そんなに傲慢でなければ周囲に教えてもらえたはずのさまざまなことを、ずっと知らないままでいる」(P.158「第4章 優れた判断力、知的謙虚さ、心の広さ」)
これは、科学の研究で不可解な結果が出た時に、ベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin、1706年~1790年)が書き残した言葉である。
自分の無知を認める知的謙虚さがない人間は、他者からの助言や新しい知識を永遠に受け取ることができない。
自らの方法をある種の「精神的代数」と表現しており、紙を二分して、片側にメリット、反対側にデメリットを書くように指南している。それから1つひとつの書き込みを吟味し、重要度に応じて数字を振っていく。あるメリットとデメリットが同じ重要度なら、両方をリストから削除する。「この方法によって、最終的に両者の差し引きのバランスがわかる。それから1日か2日さらに熟慮し、どちらの側にも特段重要な追加要素がなければ、それに従って決断を下す」(P.159「第4章 優れた判断力、知的謙虚さ、心の広さ」)
これもフランクリンが実践していた思考方法の一つであり、非常に実践的で役立つ考え方である。
この手法には自分自身の主観が大きく入り込むという弱点はあるものの、物事を相対化して紙の上に書き出し、さらに決断までに意図的に時間を置くというプロセスが組み込まれている。
直感的な感情の暴走を防ぎ、冷静な計算に基づいて判断を下すための、優れた意思決定のツールであると言える。
身体感覚を捉えて感情を抑制する
人間の直感や感情は、思考の判断に大きな影響を与える。
インテロセプション、識別、コントロールという3つの要素が組み合わさることで、直感と判断の質をしっかりと高めていくことができる。(P.200「第5章 なぜ外国語で考えると合理的判断が下せるか」)
インテロセプションとは、自分自身の身体の内部から発せられる感覚を感じ取る能力のことである。
例えば、強いストレスを感じるような状況では、思考でそれを認識するよりも前に、心拍数が上がったり胃が痛くなったりと、身体が先に反応を示すことがある。
その前提として、私たちの身体が過去の経験に基づいて無意識に発するソマティック・マーカーという身体信号の概念が存在する。
この身体からの微細な信号を受信し、現在自分がどのような感情状態にあるのかを正確に識別して言語化することで、初めて感情をコントロールすることが可能になる。
身体感覚をキャッチし、それを言語に落とし込み、そこから思考を抑制して正しい判断へと繋げるというプロセスを踏むことで、感情に振り回されずに冷静に対処しやすくなるのだ。
さらに厄介なことに、天候や周囲の匂い、視覚的な美醜といった状況が、バックグラウンド・フィーリングとして私たちの感情に無意識の干渉を与えてくる。
だからこそ、自分が今何に影響されてどのような気分になっているのかを、客観的かつ正確に識別するメタ認知能力が必要不可欠となるのである。
ネルソン・マンデラはかつてこう言った。「相手が理解できる言語で話しかければ、その内容は相手の頭に入る相手自身の言語で語りかければ、それは心に届く」(P.213「第5章 なぜ外国語で考えると合理的判断が下せるか」)
南アフリカの指導者であったネルソン・マンデラ(Nelson Mandela、1918年~2013年)のこの言葉は、対人関係の極意を表している。
自分の論理を押し付けるのではなく、相手が日常的に使っている言葉や思考の枠組みを用いて対話を行うことで、初めてこちらの意図が相手の心に響くようになる。
そうすることで不要な反発を避け、こちらの要望を通しやすくするという、極めて高度で洗練された交渉術である。
誤情報に対処するための適切な質問
現代は情報が溢れ返っており、真実と嘘を見分けることがかつてないほど困難になっている。
誤った情報を否定するためには、ウェブページ上で事実のほうを目立たせるように配慮すべきだ、とクックらは主張する。可能であれば、通説を繰り返すのは一切やめたほうがいい。(P.238「第6章 真実と嘘とフェイクニュース」)
ジョン・クック(John Cook)とスティーブン・ルーアンダウスキー(Stephan Lewandowsky、1958年~)の研究によれば、人間の脳は否定形を正しく処理するのが苦手であるという。
例えば、あるワクチンに関する嘘の不安を打ち消したい時に、「このワクチンは危険ではありません」という否定の文章を掲載すると、逆に読者の頭の中には「危険」という言葉だけが強く印象付けられてしまう。
そのため、嘘の情報を打ち消すためには、間違った情報には一切触れずに、プラスの面や正しい事実だけを強調して記載する必要がある。
間違いを指摘して否定することは、結果的にその間違いの存在感を補強し、相手の記憶に深く刻み込んでしまう可能性を高めてしまうという事実は、情報発信において非常に重要である。
虚偽から身を守る第一歩は、正しい質問をする癖をつけることだ。
・この主張をしているのは誰か。どのような経歴か。私を説得しようとする動機は何か。
・この主張の前提はどのようなものか。そこに欠陥はないか。
・私がもともと持っていた前提はどのようなものか。そこに欠陥はないか。
・この主張に対し、別の見方はできないか。
・主張の根拠は何か。別の見方と比べると、どうか。
・判断を下す前に、どんな追加情報が必要か。(P.250「第6章 真実と嘘とフェイクニュース」)
情報に接した際、常に相手の隠された動機を疑い、議論の前提条件に欠陥がないかを確認する癖をつけることが求められる。
そして、自分自身の前提すらも疑い、別の角度からのアプローチを模索し、判断を下す前に不足している情報を冷静に見極めなければならない。
「その主張をしているのは誰か。情報源はどこか。それが正しいことを別の誰かが証明しているのか。証拠は何か。証拠はどれくらい確かなものか。その証拠が誤っていることを証明しようとした者はいないか。これがでたらめ探知のイロハだ」(P.259「第6章 真実と嘘とフェイクニュース」)
著述家であるマイケル・シャーマー(Michael Shermer、1954年~)のこの発言も、批判的思考の核心を突いている。
流れてくる情報を鵜呑みにせず、証拠の確かさや反証の有無を徹底的に確認する態度こそが、フェイクニュースの海で溺れないための唯一の防衛策なのである。
好奇心が記憶力と学習を強化する
第3部(第7章、第8章)では、知性をより高めるための実りある学習法について解説されている。
つまり神経レベルでは、好奇心は空腹や性欲と変わらないのだ。ただドーパミンはそれに加えて、海馬での長期的な記憶保持も強化すると見られる。(P.274「第7章 なぜ賢い人々は学ぶのが下手なのか」)
未知の物事に対する好奇心が満たされた時、私たちの脳内では食欲や性欲が満たされた時と全く同じように快楽物質であるドーパミンが分泌される。
しかも驚くべきことに、このドーパミンは海馬の働きを活性化させ、学習した内容の記憶力を劇的に向上させる作用があるという。
さらに興味深いのは、好奇心が高まっている状態では、その時に学んでいるメインの対象だけでなく、周囲の全く関係のない雑多な情報までもが記憶されやすくなるという点だ。
これほどまでに強力な学習の推進力となる好奇心であるが、これもまたIQの高さとの相関はほとんど見られないという事実には驚かされる。
こうした理由から、心理学者のあいだでは一般的知能、好奇心、誠実さを学業的成功の「三本柱」と見なす動きが出てきた。3つのうちいずれが欠けても、うまくいかない。(P.274「第7章 なぜ賢い人々は学ぶのが下手なのか」)
好奇心がドーパミンを分泌させて記憶力を高めるという神経科学的な裏付けがあるからこそ、それが成功のための不可欠な要素として認識されるようになってきた。
この好奇心という要素は、単に学校の教育現場だけでなく、厳しいビジネスの世界においても極めて重要になってくる。
困難な課題に対して好奇心を持って取り組むことは、日々の過度なストレスを和らげ、精神的な燃え尽き症候群を防ぐための強力な防波堤となるのだ。
また、他者の異なる意見を面白がって取り入れたり、もしあの時こうしていればどうなっただろうかという反事実的思考を行う際にも、好奇心は大きな力を発揮する。
しなやかな精神がもたらす学習効果
学習を妨げる最大の要因は、自分自身の凝り固まった思考である。
ここまで述べてきたように、好奇心としなやかなマインドセットは学習を促し、失敗を克服するのを助けるという意味で、一般的知能の高低にかかわりなく、私たちの人生を変えうる知的特性と言えることがおわかりいただけただろう。(P.291「第7章 なぜ賢い人々は学ぶのが下手なのか」)
しなやかなマインドセットとは、文字通り柔軟で弾力のある精神的な姿勢のことである。
自分自身の能力は固定されたものではなく、努力次第で成長させることができると信じ、失敗を恐れずに挑戦を続ける態度を指している。
過去の成功体験に縛られた固定観念や、硬直した思考、自分はこういう人間だという決めつけ、他者に対する偏見などから完全に自由にならなければならない。
常に新しいものを受け入れる進取の精神と、他者の失敗を許容する心の広さが、長期的な学習においては必要不可欠なのである。
たとえば学習するテーマについて、自分がすでに知っていることを書き出し、それから本当に答えを知りたいと思う疑問を書き出していく。目的は知識の欠落部分を明らかにすることだ。解明すべき謎を生み出すと、好奇心が高まることが示されている。(P.299「第7章 なぜ賢い人々は学ぶのが下手なのか」)
これは、日々の学習において非常に効果的なアプローチの一つである。
自分がすでに知っている既知の領域と、まだ分かっていない未知の領域の境界線をはっきりと明確化することで、脳は知識の空白を埋めようと働き始める。
自分自身で解明すべき謎を意図的に設定することによって、未知なるものに対する好奇心に火をつけ、学習意欲を飛躍的に高めることができるのだ。
望ましい困難が記憶の質を高める
効率ばかりを求めたスムーズな学習は、実は長期的な記憶には結びつかないというパラドックスが存在する。
しかし最新の神経科学では、わからないと思っているときこそ学習効果が最大に高まることが明らかになっている。また1日の成果を意識的に抑えるほど、翌日の成果が高まることもわかっている。(P.308「第8章 努力に勝る天才なし」)
内容が難しくて全く理解できないと苦しんでいる時こそ、実は脳内では新しい神経回路が必死に構築されており、学習効果が最大化している状態にある。
また、一日で全てを完璧に暗記しようと詰め込むのではなく、ある程度のところで学習を切り上げて意図的に成果を抑えることで、睡眠中の脳の整理プロセスが働き、結果的に翌日以降の記憶の定着が高まる。
これは学習計画を立てる上で、確実に押さえておかなければならない科学的な事実である。
つまり次に学習を開始したとき、何をすべきか頑張って思い出さなければならなくなる。この一度忘れ、再び覚え直すというプロセスが記憶痕跡を強め、長期的により多くを覚えていられるようになる。(P.310「第8章 努力に勝る天才なし」)
時間を空けて少しずつ学習を繰り返す分散的学習の効果は絶大である。
長時間にわたって同じテーマに集中して取り組むことは、その場では分かったような気分になるため満足度は高いが、長期記憶の観点からはあまり推奨されない。
一度学んだことを時間経過によって忘れかけ、次に学習する時に苦労しながら思い出し、再び覚え直すという負荷の高いサイクルこそが、脳の記憶のネットワークを強固に編み上げていく。
著者はこのような適度な負荷のことを、望ましい困難と呼んでいる。
望ましい困難を戦略的に使うことは、記憶の質を高めるとともに、脳を鍛えてどんなときでも混乱や不確実性に対処できる力を身につけるのに役立つ。たとえば次のような方法を実践してみよう。
・勉強時間を分散する。数日間、数週間にわたって比較的短時間の学習を繰り返す。
・なめらかな資料には注意する。すでに述べたとおり、一見わかりやすい教科書を使っていると、よくわかった気になるが、実際には長期記憶が低下する。
・自分に事前テストを与えてみよう。新しいテーマを研究するときには、まず自分がすでに知っていることをできるかぎり絞り出してみよう。
・環境に変化をつける。
・自分自身を頻繁にテストする。いわゆる「想起練習」は、記憶を促す最高の手段だ。ただテストのときは、すぐに諦めて答えを確認しないようにする。
・混ぜる。自分自身をテストするときには、1つのテーマに集中するのではなく、さまざまな分野の問題を組み合わせるようにしよう。
・コンフォートゾーンの外に出て、現在の習熟度では難しいと感じられる問題に取り組んでみよう。(P.328から抜粋「第8章 努力に勝る天才なし」)
分かりやすく整理された資料を読んでいると、苦労せずに情報が頭に入ってくるため、自分は全て理解したと大きな勘違いをしてしまう危険性がある。
学習効果を高めるためには、一度忘れてから思い出すという負荷を意図的に掛け、既知と未知の区分を常に行うことが求められる。
また、いつも同じ机に向かうのではなく、意識して勉強の場所や環境を変えることによっても、記憶の引き金となる情報が増えて定着が強化される。
分からない問題に直面しても直ぐに答えを検索して調べるのではなく、脳に汗をかいてなるべく思い出し、考え抜く時間を持つことが、その後の深い理解に直結するのだ。
複数の異なる分野を横断的に学習することで、脳に適度な混乱という負荷が掛かり、それが記憶力をさらに強化するためのスパイスとなる。
生産的な失敗を数多く繰り返すことこそが、真の理解を深めるための最短ルートなのである。
つまり、小まめに自分自身をテストしながら、少し難易度の高い内容を短時間でテーマを変えつつ繰り返し、場所も変えながら取り組むのが理想の学習スタイルということになる。
もちろん全てを完璧に実行するのは難しいため、自分の生活スタイルに合わせて、できる範囲でこの望ましい困難を意図的に取り入れていくことが大切である。
ヒエラルキーがもたらす組織の光と影
第4部(第9章、第10章)では、個人の知性の問題を越えて、知性ある組織をどのように作り上げるかというテーマに移行する。
どんなに優秀な個人を集めても、組織全体の生産性が上がるとは限らないという経営学の永遠の課題が議論される。
また対人関係力学を調べるのに使われるMBTI(マイヤーズ・ブリッグズ・タイプ・インディケーター)などの性格テストは、実際の行動を予測するのにはあまり効果がない。(P.353「第9章 天才ばかりのチームは生産性が下がる」)
企業の人事評価などでよく採用される性格テストについて、著者が明確にあまり効果がないと一刀両断して切り捨てているのは非常に興味深い。
人間の複雑な性格や組織内での相互作用を、単純なテストの枠組みだけで予測することは不可能に近いということだろう。
ガリンスキーがこのデータをエベレストの登山記録と照らし合わせたところ、ヒエラルキーを重んじる国の人々で構成さえる登山隊は、登頂に成功する確率が高かった。(P.372「第9章 天才ばかりのチームは生産性が下がる」)
社会心理学者のアダム・ガリンスキー(Adam Galinsky)のこの研究結果は、組織のあり方について深い示唆を与えてくれる。
明確な上下関係やヒエラルキーを重んじる文化を持つ国のチームは、リーダーの強力な指揮命令系統によって統制が取れるため、エベレストの登頂に成功する確率自体は高かった。
しかし、非常に恐ろしいことに、同時にメンバーが遭難して死亡する確率もまた、ヒエラルキーの強いチームの方が圧倒的に高かったという強烈なオチがついている。
リーダーの判断が間違っていた時に、下位のメンバーが異論を唱えることができない硬直した組織構造が、チーム全体を死の淵へと追いやったのである。
機能的愚鈍と結果バイアスの危険性
組織の中で知性が失われていくプロセスは、目に見えない形で静かに進行していく。
機能的愚鈍の危険は、こうした企業の失敗譚だけでは終わらない。クリエイティビティや問題解決能力を阻害するだけでなく、内省や組織内のフィードバックを奨励しない文化は、人命にかかわる悲劇を招く。(P.394「第10章 バカは野火のように拡がる」)
機能的愚鈍とは、物事の基本的前提を問い直す姿勢を失い、自分の業務が持つ目的への好奇心や、長期的な影響への配慮が完全に欠如してしまった狭量な思考状態のことを指す。
組織の歯車として、上からの指示に何も疑問を持たずに従うだけの状態に陥り、最終的に個人が自分の頭でモノを考えることを放棄してしまうのだ。
組織内で余計な波風を立てず、モノを考えないでいる方が、精神的な不安も抑えられ、短期的には昇進にも有利に働くという現実がある。
会議の場で小さなトラブルを報告したり、抜本的な対策を提案したりする人間は、周囲からすれば時間とお金を浪費させるコスト要因であり、空気を読めないトラブルメーカーとして扱われてしまう。
そのような面倒な声は無視して既存のルールに従った方が、短期的には組織の効率性も生産性も高まるように見えてしまうのが、この問題の最も根深く厄介な部分である。
その原因は、認知的労力をなるべく避けようとする「結果バイアス」にある。私たちはある判断が実際に引き起こした結果だけに集中し、起こりえた他の結果はまるで顧みない傾向がある。(P.396「第10章 バカは野火のように拡がる」)
NASAのスペースシャトル・コロンビア号の空中分解事故という大惨事を引き起こした根本原因は、まさにこの思考のサボりであった。
過去の打ち上げでも部品の脱落などの問題は起きていたが、たまたま事故が起きなかったという結果だけを見て、組織全体がそれを安全の証明だと勘違いしてしまったのだ。
ノーベル物理学賞を受賞したリチャード・ファインマン(Richard Feynman、1918年~1988年)は、「ロシアンルーレットをするとき、1発目を無事に切り抜けたからといって、次も安全だとは思わないだろう」という強烈な比喩でこの心理状態を批判している。
今回たまたま上手くいったからといって、次回も必ず上手くいく保証などどこにもないにも関わらず、人間の脳は認知的労力を節約するために、結果だけを受け入れてその他の最悪の可能性を想像することを止めてしまうのである。
リスク許容度を下げる安全第一の精神
組織の目的や理念をどのように設定するかが、構成員の危機察知能力を大きく左右する。
一方、「NASAは社会から非常に注目される組織として、安全性の高い、安全第一の環境で活動しなければならない」と告げられた被験者は、潜在的危険を特定できた。(P.400「第10章 バカは野火のように拡がる」)
組織の目標を単なるリスク許容度の範囲内で設定すると、人々はヒヤリとするようなニアミスが発生しても、それを失敗とは認識せずにスルーしてしまう。
しかし、安全第一という明確な理念を掲げることで、人々の認識は変わり、同じニアミスであっても、それはほぼ失敗と同じ重大なインシデントとして認識されるようになる。
安全第一という言葉は、工場などで見かける単なる形式的なお題目ではなく、人間の認知バイアスを補正し、組織を崩壊から守るための極めて重要な精神的アンカーとして機能しているのだ。
『私はみなさんのリスク許容度をどのレベルにすべきかを指示するために来たわけではない。ニアミスを経験するたびにみなさんのリスク許容度は高まること、しかも自分ではそれに気づかないはずだということを伝えに来たのだ』(P.401「第10章 バカは野火のように拡がる」)
経営学教授であるキャサリン・ティンスレイ(Catherine Tinsley)のこの言葉は、組織運営における真理を突いている。
重大な事故には至らなかったニアミスを無事に経験するたびに、人間の脳は都合よく解釈を行い、無意識の内にリスクに対する許容度をどんどん高めていってしまう。
自分自身でさえその感覚の麻痺に気づけないという事実は、組織を管理する立場からすると背筋が凍るほど恐ろしい話である。
だからこそ、小さなニアミスの段階で徹底的に原因を究明して潰していき、組織全体のリスク許容度を強制的に引き下げるような運用を日常的に行わなければならない。
幸運が重なるにつれて、誤った傲慢さが身につき、手抜きへの懸念も薄れていった。(P.403「第10章 バカは野火のように拡がる」)
これは、メキシコ湾で起きた大規模な原油流出事故という大惨事をから導き出されたものである。
長期間にわたって幸運が続き、大きな事故が起きない平穏な状態が継続すると、組織には誤った傲慢さが蔓延し、安全確認の手抜きに対する危機感が消滅していく。
この心理的メカニズムは、巨大な石油プラントの運用だけでなく、私たちの日常生活における運転や、オフィスでの細かな事務作業においても全く同じように働くのである。
成功への慢心と信頼性の高い組織
大惨事を防ぐために、優れた組織はどのような特性を備えているのだろうか。
カール・ワイクとキャスリーン・サトクリフはこうした知見に基づき、信頼性の高い組織に共通して見られる、いくつかの中核的特性をまとめた。
・失敗へのこだわり
・単純な解釈の忌避
・業務への感度
・レジリエンスの強化
・専門的意見への敬意(P.405からの抜粋「第10章 バカは野火のように拡がる」)
カール・ワイク(Karl Weick、1936年~)とキャスリーン・サトクリフ(Kathleen Sutcliffe)がまとめたこれらの特性は、組織論における重要な指針となる。
過去の成功に慢心することなく、常に失敗の可能性に執着し、小さなミスの報告を罰するのではなく積極的に肯定する文化を醸成する。
物事を単純化して安易な結論に飛びつくことを嫌い、現場のメンバーとの密なコミュニケーションを絶やさず、現場の専門的な意見に経営層が真摯に耳を傾ける知的謙虚さを持つ。
ミスが発生した際には、その対応策を組織全体に周知徹底し、深い分析と議論を通じて予防策を構築し、回復力であるレジリエンスを強化していく。
これらの中核的特性を備えた組織だけが、複雑化する現代社会において深刻なエラーを回避し、持続的な成長を遂げることができるのだ。
SUBSAFEは士官に対し、「慢性的不安」を抱くよう明確に指示しており、それは「信頼しつつ、検証せよ」という言葉に要約されている。(P.407「第10章 バカは野火のように拡がる」)
SUBSAFE(The Submarine Safety Program)とは、1963年に発生した原子力潜水艦スレッシャーの沈没事故という痛ましい教訓を契機に考案された、アメリカ海軍の厳格な安全運用計画のことである。
この運用計画の中で、士官に対して常に慢性的な不安を抱き続けるように明確に指示している点は、人間の心理を深く理解した卓越したシステム設計であると言える。
相手の能力や過去の実績を信頼することは重要だが、それと同時に必ず自分自身の目で検証を怠らないという、良い意味での猜疑心と不安感こそが、最も確実な安全装置となるのである。
まとめ:知性の罠を回避して豊かな人生を
本書を通じて得られた知見は、あまりにも膨大で深い。
高IQや専門知識がもたらす致命的な落とし穴の存在から始まり、それを回避するための知的謙虚さや好奇心といった個人の精神的態度、さらには機能的愚鈍に陥らないための組織的な仕組み作りに至るまで、一貫して密度の濃い議論が展開されていた。
これほどまでに情報濃度が高く、知的興奮を呼び起こす書籍には滅多に出会えるものではない。
一回読んだだけでは到底全てを吸収しきれないため、ある程度の時間を置いてから再読し、詳細な論点や具体的な事例を改めて自分の中で噛み砕き、確認する作業が必要になるかもしれない。
本書に書かれている内容は、単なる学術的な知識の枠を超えて、日々の生活における意思決定から、実務におけるチームビルディング、ひいては組織全体の安全管理や方針決定に至るまで、極めて実用的な価値を持っている。
自身の知性が暴走して破滅的な愚行を犯すリスクを少しでも減らし、より豊かで実りある人生を歩むための羅針盤として、強く推奨したい一冊である。
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