
- 書籍紹介
- デビッド・ロブソンの略歴・経歴
- 『BRAIN BOOST(ブレイン・ブースト)』の目次
- 『BRAIN BOOST(ブレイン・ブースト)』の概要・内容
- 『BRAIN BOOST(ブレイン・ブースト)』の要約・感想
- 信念と期待が人生を形作る
- 自己成就的予言のメカニズム
- 本書が解き明かす最大の問い
- 脳は精巧な予測マシンである
- 感情と知覚のズレを認識する
- 言葉がもたらす治癒の力
- プラセボ効果を最大化する条件
- 事実に基づく思考の再構築
- 集団心理と未知へのバイアス
- 脳の力で身体の限界を超える
- 主観的な評価が生存率を変える
- 期待がもたらす運動の好循環
- 内的な視覚化がもたらす力
- 言葉がカロリー消費を決定する
- 不安定な心が食欲を暴走させる
- 満足感が過食を防ぐ鍵となる
- 想像力が食欲をコントロールする
- 喜びに焦点を当てることの医学的価値
- ストレス反応の再評価
- 解釈がすべてを決める
- 不安の裏側にあるポジティブな機能
- 自制心の消費という現実
- 言葉が疲労感を軽減する
- 脳のリソースは無限であるという信念
- 無限派は幸福度が高い
- 活力を生み出す独自の活動を知る
- 消耗感に対する客観的な視点
- 自己肯定が脳のスペックを引き上げる
- フラストレーションは成長の証
- 加齢に対する思い込みが寿命を決める
- 主観年齢の若さがもたらす健康
- 遺伝子の影響は想像以上に小さい
- すべての反応の根底にある信念
- 自分と距離を置く魔法の手法
- 失敗を許し、成功を盛大に祝う
- 解釈が運命を切り拓く
- 自らの色に人生を染め上げる
- 書籍紹介
- 関連書籍
- 関連リンク
書籍紹介
- 信念や具体的な期待が「自己成就的予言」を生み、脳が予測マシンとして現実の知覚・行動・身体反応を形作る。
- プラセボ効果・運動・食事・ストレスなどで、思い込みを変えるだけで健康やパフォーマンスが劇的に向上する。
- ネガティブな解釈をポジティブにリフレーミングし、イメージトレーニングや自己肯定を行うことで脳と身体の力を最大限に引き出せる。
- 加齢や寿命に対するマインドセットを変えるだけで、実際の生存年数や幸福度が大きく変わり、人生全体をより良くデザインできる。
デビッド・ロブソンの略歴・経歴
デビッド・ロブソン(David Robson)
イギリス出身の科学ジャーナリスト。
ケンブリッジ大学を卒業(数学専攻)。ニュー・サイエンティスト誌の特集担当編集者、BBC Futureのシニア・ジャーナリストを経て、独立。ガーディアン紙、アトランティック誌などに寄稿。人間の脳、身体、行動が専門分野。
『BRAIN BOOST(ブレイン・ブースト)』の目次
はじめに ──謎の「突然死」症候群
第1章 予測マシン いかにして脳の「思い込み」は現実を作るのか
第2章 信じれば治る プラセボ(偽薬)治療の最前線から
第3章 痛みと思考 ノセボという「呪い」を無毒化する方法
第4章 脳のミラーシステム こうして「陰謀論」は集団内に広まる
第5章 肉体の限界は脳が決める より速く、より強く、より健康に
第6章 ダイエットのパラドックス なぜ「ヘルシー」なものほど太るのか
第7章 ストレスを科学する 恐れや不安をエネルギーに変えるテクニック
第8章 無限の集中力 自制心と意志力をキープするための「儀式」
第9章 期待と肯定 チームのパフォーマンスを高める驚きの効果
第10章 若さとは何か 寿命すらも左右する重要なマインドセット
おわりに ──人生を変える三つの戦略的アドバイス
『BRAIN BOOST(ブレイン・ブースト)』の概要・内容
2024年7月20日に第一刷が発行。二見書房。317ページ。ソフトカバー。127mm×188mm。四六判。
副題は「脳を変えるマインドセット」。
原題は『The Expectation Effect: How Your Mindset Can Transform Your Life』で、2022年1月6日に刊行。
翻訳は、中尾由恵(なかお・よしえ)。大阪外国語大学(現在の大阪大学外国語学部)で認知言語学を専攻。医療系メーカーおよびIT系企業での社内翻訳者を経て、2023年からフリーランスになった人物。
『BRAIN BOOST(ブレイン・ブースト)』の要約・感想
- 信念と期待が人生を形作る
- 自己成就的予言のメカニズム
- 本書が解き明かす最大の問い
- 脳は精巧な予測マシンである
- 感情と知覚のズレを認識する
- 言葉がもたらす治癒の力
- プラセボ効果を最大化する条件
- 事実に基づく思考の再構築
- 集団心理と未知へのバイアス
- 脳の力で身体の限界を超える
- 主観的な評価が生存率を変える
- 期待がもたらす運動の好循環
- 内的な視覚化がもたらす力
- 言葉がカロリー消費を決定する
- 不安定な心が食欲を暴走させる
- 満足感が過食を防ぐ鍵となる
- 想像力が食欲をコントロールする
- 喜びに焦点を当てることの医学的価値
- ストレス反応の再評価
- 解釈がすべてを決める
- 不安の裏側にあるポジティブな機能
- 自制心の消費という現実
- 言葉が疲労感を軽減する
- 脳のリソースは無限であるという信念
- 無限派は幸福度が高い
- 活力を生み出す独自の活動を知る
- 消耗感に対する客観的な視点
- 自己肯定が脳のスペックを引き上げる
- フラストレーションは成長の証
- 加齢に対する思い込みが寿命を決める
- 主観年齢の若さがもたらす健康
- 遺伝子の影響は想像以上に小さい
- すべての反応の根底にある信念
- 自分と距離を置く魔法の手法
- 失敗を許し、成功を盛大に祝う
- 解釈が運命を切り拓く
- 自らの色に人生を染め上げる
世界をどのように捉え、自分の人生をどう解釈するかによって、目の前に広がる現実そのものが大きく変わっていく。
そんな驚くべき事実を、膨大な科学的根拠とともに提示してくれるのが、デビッド・ロブソン(David Robson)の著書『BRAIN BOOST(ブレイン・ブースト)』である。
原題は『The Expectation Effect: How Your Mindset Can Transform Your Life』であり、直訳すれば「期待効果:マインドセットがいかに人生を変えるか」となる。
この名著は、二見書房から刊行され、中尾由恵(なかお・よしえ)の卓越した翻訳によって、非常に読みやすく日本に紹介された。
私たちの思い込みや信念が、身体の健康や精神の強さにどれほど直接的な影響を与えているのかを知れば、明日からの生き方が根底から覆るはずである。
本書が説く「期待効果」の絶大な影響力を紐解きながら、より楽しく、より幸福を追求できる人生へのヒントを探っていきたい。
信念と期待が人生を形作る
私たちが抱く思考は、単なる頭の中の想像にとどまらず、物理的な現実へと波及していく力を持っている。
ロブソンは本書の冒頭で、この期待効果の本質について非常に重要な前提を提示している。
ここできわめて重要なのは――本書を通じて何度も強調することだが――、各章で取り上げる「期待効果」は、楽観主義か悲観主義かといった、ざっくりとした話ではなく、具体的な信念や思い込みに関するものだということだ。(P.10「はじめに ──謎の「突然死」症候群」)
つまり、「なんとなく前向きにいこう」というような漠然とした精神論を語っているのではない。
自分自身の能力や状況に対する、明確で具体的な信念や思い込みこそが、私たちに期待効果をもたらすのである。
日々の生活の中で、自分が何を信じ、何に期待しているのかを意識的に探ることが、自らの人生をデザインする第一歩となる。
自己成就的予言のメカニズム
この具体的な思い込みが、いかにして私たちの行動と結果を変えていくのかについて、さらに深い解説が続く。
最近の研究では、人の信念や思い込みが、自己成就的予言(self-fulfilling prophecies)[訳注:期待や思い込みに基づいて意識的または無意識的に行動することで、それが現実になること]となり、人生を良くも悪くも左右すること、そして、薬物に対するプラセボ反応やノセボ反応は、その一例に過ぎないことが明らかになっている。(P.11「はじめに ──謎の「突然死」症候群」)
信念と思い込みが「自己成就的予言」になるという事実は、現代を生きる私たちにとって最大の武器にも最大の弱点にもなり得る。
もし自分が「失敗するに違いない」と思い込んでいれば、無意識のうちに失敗へと向かう選択を重ねてしまう。
逆に、「必ず乗り越えられる」と信じていれば、その期待に沿った現実的な努力や工夫が自然と引き出されるのである。
この強力な自己成就的予言のメカニズムを恐れるのではなく、自らの成長のために意識して最大限に活用していくべきだったのだ。
本書が解き明かす最大の問い
では、具体的にどのようにして、心と体が連動していくのだろうか。
では、体と脳と環境がどのように相互作用して、そうした自己成就的予言を生み出すのか。私たちの心身の健康を決定づける期待や信念とはどのようなものなのか。どうすれば、こうした興味深い研究結果を人生に役立てることができるのか。本書では、これらの問いを中心に解き明かしていく。(P.14「はじめに ──謎の「突然死」症候群」)
これが、本書を貫く明確な問いであり、私たちが読み進めるための強靭な軸となる。
脳という神秘的な臓器が、外界の環境と身体の反応をどのように結びつけているのかを理解することは、自分自身をコントロールするための鍵である。
科学の知見をただの知識として終わらせるのではなく、日々の生活をより豊かにするための実践的なツールとして役立てていこう。
脳は精巧な予測マシンである
私たちの脳が現実をどのように認識しているのか、その根本的な仕組みについて、ロブソンは革新的な見方を紹介している。
私たちの脳は「予測マシン」である――つまり、脳は感覚器官から入ってくる生の情報だけでなく、期待や過去の経験にも基づいて、現実世界を精巧に模した疑似世界を構築している――という考え方は、ますます多くの神経科学者が認めるところとなっている。(P.18「第1章 予測マシン いかにして脳の「思い込み」は現実を作るのか」)
脳が単に目で見たものや耳で聞いたものをそのまま受け取っているわけではないという事実は、非常に衝撃的である。
感覚器官からの情報だけでなく、過去の経験や未来に対する期待を複雑に絡み合わせることで、脳は独自の「疑似世界」を構築しているのだ。
そして、私たちが現実だと信じて疑わないものの大半は、実は脳が作り出したこの疑似世界の影響を色濃く受けている。
この事実を知っていれば、自分の認識が絶対的な真実ではないと気づき、より柔軟に物事を受け入れることができるはずである。
感情と知覚のズレを認識する
脳が予測マシンであるならば、私たちの抱く感情もまた、現実を歪めるフィルターになり得る。
特に、不安や抑うつ症状を感じていて、世界中がその不安を裏づけているように思えるとき、私は「自分の感情と、それに伴う期待や予測が知覚を歪めているせいかもしれない」と考えるようにしている。(P.33「第1章 予測マシン いかにして脳の「思い込み」は現実を作るのか」)
ロブソン自身が、時折不安や抑うつ症状に悩まされることがあると率直に告白している点は、読者として驚くと同時に非常に好感を持つ素晴らしい部分である。
彼自身が、この著作の執筆過程で得た深い知識を、自らの心のケアに直接活用していることが伝わってくる。
私たちは不安に襲われたとき、感情と期待と予測が絡み合い、現実の知覚と大きくズレている可能性を常に意識しなければならない。
ネガティブな妄想に囚われそうな時こそ、ポジティブな要素へと意図的に視線を移し、自らの現実認識を再調整することが極めて重要である。
不安になり過ぎず、また不安を拡大解釈しないための免疫を、日頃から自分の中に作り上げておくことが求められる。
そのためには、直面している問題をより具体的に詳細に観察し、細かく分割して一つずつ丁寧に考察する習慣が有効だったのだ。
言葉がもたらす治癒の力
思い込みの力は、医療の現場でも明確な効果として表れる。
いずれのケースでも、ただ目の前の事実を使って、患者が治療プロセスや予後について理解し、経過をできるだけポジティブにとらえる手助けをしたに過ぎない。(P.65「第2章 信じれば治る プラセボ(偽薬)治療の最前線から」)
医師が患者に対して、共感的で安心感を与える態度で接するだけで、治癒のスピードが変わるというのは驚嘆すべき事実である。
否定的で事務的な説明ではなく、希望を持てる肯定的な言葉を選ぶことで、患者の自己回復力は劇的に高まり、通常よりも早く症状が軽くなる。
言葉が単なるコミュニケーションの道具を超え、人間の生理的機能に直接アクセスするスイッチとして機能している証拠である。
このことは、医療現場に限らず、日常的に私たちが自分自身や他者に投げかける言葉の重要性を、痛烈に教えてくれる。
プラセボ効果を最大化する条件
プラセボ(偽薬)の効果に関する研究は、人間の心の不思議さをさらに深く掘り下げていく。
治療の選択肢がある場合、プラセボの効果に影響を与える要因を考慮しよう。ほかのすべての条件が同じなら、小さい錠剤よりも大きい錠剤のほうが、さらに錠剤よりもカプセルのほうが効果は高い。(P.67「第2章 信じれば治る プラセボ(偽薬)治療の最前線から」)
それがプラセボだと理屈で分かっていても、なお人間の体は現実的な効果を得てしまうという明確な研究結果があることには舌を巻く。
薬の形状がもたらす視覚的、心理的なインパクトが、効能に対する期待値を押し上げ、身体の反応を変えてしまうのだ。
一見すると馬鹿らしく思えるかもしれないが、人間の持つこの純粋な反応メカニズムを決して疎かにしてはいけない。
最終的な決断において、自分が心の底から「良さそう」と感じたものを選択することが、最も効果的であるという人生の真理でもある。
これは病気の治療だけでなく、例えば自分が気に入ったデザインの優れた道具を毎日の作業で使うといった場面にも、大いに応用が効く考え方である。
事実に基づく思考の再構築
肯定的な思い込みが薬になる一方で、否定的な思い込みは「ノセボ効果」として身体に害をもたらす。
例えば、副作用が発生する可能性が10パーセントあると言われたら、90パーセントの患者には副作用が起こらない、という事実に着目しよう。(P.93「第3章 痛みと思考 ノセボという「呪い」を無毒化する方法」)
物事のどの側面に光を当てるかによって、受け取る感情は全く正反対のものになる。
これは思考の枠組みを意図的に変える「リフレーミング」という手法の、非常に分かりやすく実用的な例え話である。
嘘をついたり現実逃避をするのではなく、あくまで客観的な事実にしっかりと基づきながら、ポジティブな思考を維持することが極めて大切である。
ネガティブな情報に触れた時、反射的に不安を抱え込むのではなく、残された肯定的な可能性に意識を向ける訓練を積んでいきたい。
集団心理と未知へのバイアス
思い込みの連鎖は、個人の内面にとどまらず、社会全体へと波及することがある。
集団心因性疾患が起こりやすい特定の状況を覚えておこう。例えば、政治的な不安が高まっているとき、新しい技術が導入されるとき、新たな医療行為が採用されるときなどは、その可能性が高くなる。「なじみがない」と「危険」を、すぐに結びつけないようにしよう。(P.120「第4章 脳のミラーシステム こうして「陰謀論」は集団内に広まる」)
心因性疾患という現象が存在し、さらにそれが集団全体で連鎖的に陥る場合があるという事実には、深い恐れを抱くと同時に納得もする。
社会情勢の不安定さや、新しい技術への無理解といった背景が、人々の恐怖心を煽り、集団的なパニックを引き起こすのである。
人間は本能的に、未知のものやなじみのないものに対して、短絡的に「危険だ」というレッテルを貼ってしまいがちである。
こういった心理的メカニズムを知っておくだけで、根拠のない噂や陰謀論に流されないための、強力な現実的免疫を獲得できるのは素晴らしいことである。
脳の力で身体の限界を超える
身体的なパフォーマンスもまた、脳が設定した限界に大きく縛られている。
パフォーマンスの向上をもたらすためには、「脳には身体的パフォーマンスを制御する力がある」と理解するだけで十分なのだ。(P.135「第5章 肉体の限界は脳が決める より速く、より強く、より健康に」)
疲労や痛みの限界点というのは、筋肉の限界ではなく、身体を守るために脳が意図的に発しているストップサインである場合が多い。
偽薬と分かっていても痛みを軽減させる効果が出るのと同じように、自らの身体能力に対する期待が、実際のパフォーマンスを向上させるのである。
自分の毎日の生活をより良く、活力あるものにするためには、使える知識やメカニズムは遠慮なく使った者の勝ちである。
脳が身体をコントロールしているという事実を深く信じ込み、その反応を積極的に利用していくべきなのだ。
主観的な評価が生存率を変える
運動に関する自己評価が、寿命にまで影響を与えているというデータは、本書の中でも特に衝撃的なものの一つである。
全体的に、実際の運動習慣とは関係なく、自身の運動状況について悲観的な見方をしていた人は、自分は平均よりも活動的だと考えていた人に比べて、調査期間中に亡くなる確率が最大で71パーセントも高かったのだ。(P.143「第5章 肉体の限界は脳が決める より速く、より強く、より健康に」)
客観的な運動量や科学的なデータよりも、自分がどう感じているかという主観性が、生死を分けるほどの違いを生んでいる。
自分は平均以上の努力をしている、しっかりと活動できていると、何事においても前向きに考えておくことが、良い人生を送るための秘訣なのである。
冷徹な客観性だけで自分を厳しく評価し続けるのではなく、時には大らかな主観性で自分を肯定してあげることが、健康に直結するのだ。
期待がもたらす運動の好循環
運動そのものの効果も、私たちがそこに何を期待するかで大きく変動する。
気分の向上も鎮痛作用も、エンドルフィンの分泌によって生じると考えられている。これらは身体活動に対する自動的な生理的反応かもしれないが、その反応を引き起こすうえで、人の期待が大きな役割を果たしており、その可能性について教えることで、効果を高められるようだ。(P.144「第5章 肉体の限界は脳が決める より速く、より強く、より健康に」)
運動をすれば緊張が緩和され、新しい活力が湧き出し、身体の痛みが減少するはずだと強く期待することで、本当にその通りの現実的な反応が引き出される。
私たちの脳は、予測した未来に合わせて身体のホルモン分泌までも最適化してしまうという、驚異的なシステムを持っていたのだ。
まさに「信じる者は救われる」という古いことわざが、最新の科学によって見事に証明された形である。
もちろん、現実離れし過ぎた妄想は禁物であるが、常識の範囲内で自分の行動のポジティブな結果を強く期待し、信頼し続けることが重要である。
内的な視覚化がもたらす力
脳に成功を予感させるための具体的なテクニックとして、イメージトレーニングの重要性が語られている。
この視覚化は、プロのスポーツ選手にとっても、運動をする一般人にとっても、同じくらい効果絶大であることが、科学的実験によって確認されている。(P.147「第5章 肉体の限界は脳が決める より速く、より強く、より健康に」)
ここで言う「視覚化」とは、自分自身を外からカメラで撮ったように眺める客観的なイメージではなく、自分の目線で体験する主観的で内的なイメージトレーニングのことである。
俯瞰的で外的な視点よりも、自分の筋肉の動きや呼吸、その時の感情までをリアルに感じる主観的で内的な視点の方が、脳にはるかに強い影響を与える。
本番を迎える前に、しっかりと時間を確保し、極めて具体的にその状況を想像することの重要性がここにある。
細かいディティールに至るまで、精細に状況を思い描き、何事においても事前に丁寧なイメージトレーニングを行う習慣をつけていきたい。
言葉がカロリー消費を決定する
私たちが日常的に口にする食事でさえ、言葉の持つ魔力から逃れることはできない。
脳は、実際の内容とは関係なく、言語情報のみに基づいて、エネルギーの摂取量と消費量に対する予測を調整していたようだ。(P.168「第6章 ダイエットのパラドックス なぜ「ヘルシー」なものほど太るのか」)
食事に含まれる実際の物理的なカロリー数と、その食品のネーミングなどの言葉や情報から想起されるカロリー予測との間には、明確な違いが存在する。
つまり、その食事に対して自分がどのような期待や予測を抱くかによって、食後の身体の消費カロリーまでもがダイナミックに変わってしまうのである。
全く同じ内容の低カロリーのドリンクを飲ませる実験で、「ごちそう」と魅力的なラベルの貼られた容器で飲んだ被験者は、「ヘルシー」と書かれたラベルの容器で飲んだ被験者よりも、なんと消費カロリーが大きかったという研究結果には息を呑む。
私たちが日々触れる言葉が持つ力、そして無意識に何かを期待し信じることの強さが、ここでもまざまざと見せつけられる。
不安定な心が食欲を暴走させる
さらに、私たちの心理状態が、食の選択に直接的な影響を及ぼしていることも見逃せない。
人は、自分が貧しく不安定だと感じるような状況に置かれるほど、より甘いスナックを食べたくなったり、大きなサイズの食事を選んだりする傾向があることが示されたのだ。そしてこれは、体や脳のホルモン反応の変化に対応しているようだ。(P.176「第6章 ダイエットのパラドックス なぜ「ヘルシー」なものほど太るのか」)
これもまた、人間の生存本能と現代社会の環境のズレを示す、非常に興味深い研究結果である。
自分の置かれた状況に不安を感じたり、心が不安定になったりすると、脳は危機を察知してエネルギーを蓄えようと指令を出すのである。
疲れた時やストレスが溜まった時に、どうしても甘いものを大量に食べたくなる時には、自分自身の心のSOSサインとして注意が必要である。
食欲が暴走している時こそ、ただ我慢するのではなく、自分が今、何に対して不安定になっているのかを冷静に見つめ直す時間が求められる。
満足感が過食を防ぐ鍵となる
ダイエットの成功において、私たちが陥りがちな大きな罠が存在する。
ダイエット中は、まるで何かの罰であるかのように、味気がなく印象に残らないような食事をとろうとしがちだが、最近の研究では、ダイエット中は特に、風味や食感が重要であることが示されている。(P.178「第6章 ダイエットのパラドックス なぜ「ヘルシー」なものほど太るのか」)
食事において、人間が本能的に求める「満足感」の重要性を決して甘く見てはいけない。
「これはヘルシーで味が薄い」と最初から思い込んでしまうと、脳は十分なエネルギーを得ていないと錯覚し、満足感が大きく減少してしまう。
その結果、空腹感が満たされずに、反動でより多くのものをドカ食いしてしまう可能性が非常に強くなるのである。
だからこそ、我慢一辺倒ではなく、しっかりとした風味の強いスパイスや、旨味の強いアンチョビ、濃厚なパルメザンチーズなどを賢く料理に活用することが推奨される。
そうした工夫によってわずかにカロリーが増えたとしても、精神的な満足感によってその後の過食を防げるため、補って余りある素晴らしい効果を得られるはずである。
想像力が食欲をコントロールする
食べる前のわずかな思考実験が、実際の摂取量を変えるという魔法のようなテクニックもある。
ところが、被験者の反応はまったく逆で、味覚をイメージするよう促されなかった被験者よりも、むしろ小さいサイズを選んでいたのだ。食べたときの快楽について、より深く考えることで、少量でも十分に満足感が得られるはずだと認識したのだろう。(P.180「第6章 ダイエットのパラドックス なぜ「ヘルシー」なものほど太るのか」)
さまざまな甘いお菓子の味や香り、サクサクとした食感を事前にじっくりとイメージしてもらったグループに、その後チョコレートケーキをどのくらいの量食べたいかを尋ねるという実験がある。
驚くべきことに、食べる喜びを具体的にイメージをした人たちの方が、何も想像しなかった人たちよりも「少ない量」を選択したというエピソードである。
食事の前に、舌触りや芳醇な香り、咀嚼する感覚を脳内でリアルに想像することで、実際に食べる前から脳はある程度の満足感を得てしまうのだ。
結果として、無駄な食欲を自然に抑えることができるという、誰にでもすぐ実践できる究極のダイエット法であると言える。
喜びに焦点を当てることの医学的価値
日々の生活の中で何に価値を置くかが、身体の健康レベルを決定づける。
ある研究論文の著者たちは、こう結論づけている。「人生の重要な側面が、喜びではなくストレスや大きな悩みの種になっている場合、その影響が心血管系や免疫系にも現れる可能性があると考えてもおかしくない」(P.183「第6章 ダイエットのパラドックス なぜ「ヘルシー」なものほど太るのか」)
自分のたった一度の人生において、義務感やストレスではなく、心からの喜びに焦点を当てて生きることの重要性が説かれている。
慢性的な悩みや不満を抱え続けることは、精神をすり減らすだけでなく、心血管系や免疫系といった生命維持の根幹にまで物理的なダメージを与えてしまうという話である。
だからこそ、しっかりと自分自身を大切に扱い、小さな成功を褒め、日々の苦労を労って、心を満たして満足させることが不可欠である。
そうした前向きで自己肯定的な態度こそが、結果的により長く、幸せで健康的な人生を送るための最強の防具となるのである。
ストレス反応の再評価
現代人にとって避けては通れないストレスに対して、私たちは全く新しいアプローチを取ることができる。
しかし、新たな再評価のテクニックを使えば、息苦しさや鼓動の速さを感じたとしても、心配する必要はない。ただ一つ覚えておくべきことは、それが弱さの表れではなく、自分の最高のパフォーマンスや将来の成長に役立つものだということだ。(P.197「第7章 ストレスを科学する 恐れや不安をエネルギーに変えるテクニック」)
緊張した時の動悸や息苦しさといった身体の反応を、短絡的に「プレッシャーに負けている」と否定的に評価してはいけない。
より慎重に事前の準備をするための警告であり、その後の大きな成長や達成の報酬を得るために必要なプロセスだと意識することで、無駄な不安を覚えずに済むという再評価の素晴らしい方法である。
起きている事実を捻じ曲げて嘘をつくのではなく、目の前の事実をありのままに受け入れた上で、その意味づけや解釈をポジティブに変えることが極意である。
解釈がすべてを決める
ストレス研究の歴史を築いた偉大な学者の結論も、この思い込みの力に行き着く。
ストレスとは「降りかかってくるものではなく、どう受け止めるかの表れである」。それがセリエの出した結論だった。(P.214「第7章 ストレスを科学する 恐れや不安をエネルギーに変えるテクニック」)
ストレス研究の父と呼ばれるハンス・セリエ(Hans Selye、1907~1982年)の言葉は、非常に重みがある。
外部からの刺激そのものが絶対的な悪なのではなく、それを私たちがどう解釈し、どう受け止めるかがすべてを決めるという真理である。
同じ出来事に遭遇しても、ある人は心を病み、ある人は奮起して成長の糧にするという違いは、まさにこの解釈の仕方に起因しているのだ。
不安の裏側にあるポジティブな機能
不安に伴う不快な身体的感覚にも、実は素晴らしい利点が隠されている。
不安に対処するときは、身体的感覚の潜在的な利点について考えよう。例えば、呼吸の速さや心臓の高鳴りは、酸素やグルコースを体と脳に送るのを助け、課題に対処するために必要なエネルギーを与えてくれる。また、発汗は、目標達成のために懸命に働く体を冷やす働きがある。(P.214「第7章 ストレスを科学する 恐れや不安をエネルギーに変えるテクニック」)
緊張で心臓がバクバクと高鳴るのは、恐怖に怯えているからではなく、これからの重要な課題に対処するために、脳と身体に大量の酸素とエネルギーを必死に送り込んでいる証拠である。
手に汗を握るのも、極度の集中によって発熱した身体を冷却し、パフォーマンスを維持しようとする素晴らしい自動調節機能なのだ。
一見するとネガティブに思える身体反応の裏側を論理的に考え、そのポジティブで機能的な面に意識的に焦点を当てることで、不安は恐れるべき敵ではなくなる。
自制心の消費という現実
日々のタスクに向き合う中で、私たちが感じる気力の限界についても科学的な説明がなされている。
誘惑に抵抗する、注意をそらさないようにする、難しい問題を解く、将来の計画を立てる、感情を抑えるなど、タスクの種類はさまざまだが、いずれのケースでも、ある分野で集中力や自制心を働かせると、別の分野でのパフォーマンス低下につながっている。(P.220「第8章 無限の集中力 自制心と意志力をキープするための「儀式」」)
私たちは日常生活で、実に多くの場面で自制心を使っている。
理不尽な怒りを抑え込んだり、面倒な書類作成に集中したりするたびに、目に見えない精神のエネルギーが確実に削られていく。
ある困難なタスクで集中力を使い果たすと、その後の別の作業でミスが増えたり、誘惑に負けやすくなったりするのは、気力の低下という避けられない現実である。
言葉が疲労感を軽減する
しかし、この気力の消耗度合いすらも、言葉による暗示で変えることができる。
オランダの研究者がおこなった実験では、ある運動が、疲れるものではなく活力を与えるものだと伝えるだけで、消耗感が軽減され、持久力や集中力が増すことが示されている。(P.224「第8章 無限の集中力 自制心と意志力をキープするための「儀式」」)
これから取り組む作業について、「これは非常に骨の折れる大変な仕事だ」とネガティブな面を強調し過ぎないことの重要性が証明されている。
むしろ、マイナスの側面ではなく、「この作業を終えれば素晴らしい達成感と新しい活力が得られる」とプラスの面を意図的に強調すると良いという話である。
自分自身に言い聞かせる言葉を少し変えるだけで、感じる疲労感が和らぎ、さらなる集中力を引き出せるというのは、非常に実用的な知恵である。
脳のリソースは無限であるという信念
さらに踏み込んで、精神力の限界そのものに対するマインドセットを変えることが提案されている。
一方、脳のリソースを「無限」ととらえた被験者は、最初の作業を終えた後に、疲労の兆候を示さなかった。(P.226「第8章 無限の集中力 自制心と意志力をキープするための「儀式」」)
脳の力は無限であり、使えば使うほど研ぎ澄まされていくと考えることで、気力は本当に底なしになる。
気力は無限だと固く信じている人は、困難な作業を連続して行っても、著しい疲労の兆候を見せないのである。
肉体的な体力には生物学的な限界があるかもしれないが、脳のリソースや精神力は無限であると意識づけるのが、最もパフォーマンスを高く保つ秘訣なのかもしれない。
本書では、「自我の消耗」という専門的な言葉で、気力や集中力がすり減る現象を詳細に解説している。
現代の日本であれば、身体的な疲労をゲームの「HP(ヒットポイント)」、精神的な気力を「MP(マジックポイント)」に例えて考える人も多いだろう。
そのMPの上限は定められておらず、枯渇することはないと思い込むことが最大の防御策となる。
無限派は幸福度が高い
精神力が無限だと信じている人は、決して無理をして体を壊すわけではない。
しかし、幸い、少なくともジョブの調べによると、リソース無限派の中で極端な仕事中毒が蔓延しているということはなさそうだ。(P.232「第8章 無限の集中力 自制心と意志力をキープするための「儀式」」)
精神力を無限だと捉えている人々は、総じて人生の幸福度や健康度が非常に高いという事実が確認されている。
彼らは決して、仕事ばかりに依存して身を滅ぼすようなワーカホリックではないのだ。
豊かな精神力の備蓄があるからこそ、それを日々の生活の中で効率的に使いこなし、無駄な時間の浪費やストレスによる停滞が無くなるからだという説得力のある説明がなされている。
なお、引用文にあるジョブとは、心理学の研究で知られるウィーン大学のベロニカ・ジョブ(Veronika Job)のことである。
活力を生み出す独自の活動を知る
気力を回復させるためには、自分自身の特性を深く理解しておく必要がある。
個人的に、精神的な努力が活力につながると感じるのは、どんな場合かを認識しよう。難しいからこそ楽しめるタスクは、どんなものだろうか。それを思い出すことで、自分の可能性に対する信頼を強化することができる。(P.241「第8章 無限の集中力 自制心と意志力をキープするための「儀式」」)
適度な精神的負荷をかけることで、逆に深い没入感や内面からの活力が湧き出るような行為を、自分なりにいくつか想起してリストアップしておくべきである。
なんとなく気力が起こらない時や、心が沈みがちで何も手につかない時に、そのリストを思い出して意図的に行動を起こすのだ。
あるいは、日常生活の中にその活動を組み込んで、精神のメンテナンスとして定期的に活用するのも良い。
自分の場合であれば、墨の香りに包まれて文字を書く書道であったり、無心になって部屋を掃除することであったり、季節の風を感じながら目的もなく歩く散歩などがそれに当たる。
消耗感に対する客観的な視点
自分がひどく疲労を感じた時には、その感情を一度疑ってみることも大切だ。
ある活動が自分を疲弊させるものだと感じたときは、それが客観的に見て、活力を与えてくれるような活動よりも困難なものなのか、あるいはただの先入観なのかを考えてみよう。(P.242「第8章 無限の集中力 自制心と意志力をキープするための「儀式」」)
自分が苦痛だと感じている同じ活動の中で、他の人は生き生きと活力を得ていないだろうか、と考えてみる。
また、自分が全く消耗を感じない他の楽しい活動と比較して、本当に目の前のタスクの方が物理的に困難なのかを問い直す。
そうやって常に客観性を持ち、自分の感情を俯瞰的に観察する癖をつけることで、無意識の先入観によるエネルギーの漏れを防ぐことができる。
自己肯定が脳のスペックを引き上げる
プレッシャーのかかる場面で本来の力を発揮するためには、自己の存在価値を再確認する作業が効果を発揮する。
まず、あなたにとって重要な意味を持つ特性(ユーモアのセンス、創造性、独立心、社交性、運動能力など)を10個、挙げてみよう。そして、その中から最も重要なものを選び、なぜそれが重要なのか(自分の人生でそれが特に重要だと気づいた出来事など)を簡単に説明してみよう。(P.267「第9章 期待と肯定 チームのパフォーマンスを高める驚きの効果」)
この一見シンプルな作業、つまり自己肯定のプロセスを実行することで、不安や恐怖などのネガティブな思考から「脳の作業スペース」が見事に解放される。
余計な雑念が消え去ることで、記憶力や集中力が本来のスペック通りに増強されるのである。
自らの自尊心を一時的に強固なものにして、目の前の重要な作業に深く没頭するための、非常に実践的で優れた方法である。
例えば自分自身に当てはめるのであれば、そこそこの知識欲や、物事の美しさを見出す美的センス、人間関係を円滑にするユーモア、深く心に響く音楽好きの一面、多様な表現を愛する文学性などを挙げるだろう。
フラストレーションは成長の証
新しいことに挑戦する際の苦しみも、見方を変えればポジティブなエネルギーに変換できる。
その過程でフラストレーションを覚えたときは、それは学習の効果が出ているサインであり、目の前の課題が重要であることの表れだととらえよう。このような簡単なリフレーミングをおこなうだけで、パフォーマンスが向上することがある。(P.273「第9章 期待と肯定 チームのパフォーマンスを高める驚きの効果」)
学習や練習の過程で感じるもどかしさや苛立ちは、決して自分が無能だから生じているわけではない。
それは新しい神経回路が構築されようとしている成長や挑戦の真っ只中にある証拠なのである。
「自分には向いていない」という苦手な意識が本当に事実なのかどうか、一度立ち止まって考え直し、問い直し、別の視点で柔軟に考えてみる。
常に前を向いてポジティブに考えることが、壁を乗り越えるための原動力となる。
単に、まだ経験が足りなくて出来ないだけであり、これから飛躍するための大きな伸び代があるということに過ぎないのかもしれない。
過去の失敗による固定観念にとらわれているだけ、あるいは根拠のないバイアスが掛かっているだけかもしれないと疑うことが大切だ。
加齢に対する思い込みが寿命を決める
期待効果の驚くべき力は、私たちの寿命にまで及ぶ。
その結果、加齢についてポジティブにとらえていたグループは研究開始からの平均生存年数が22.6年だったのに対し、ネガティブにとらえていたグループは15年と、実に約7.5年分の開きがあったのだ。(P.279「第10章 若さとは何か 寿命すらも左右する重要なマインドセット」)
これは、イェール大学公衆衛生大学院の教授であるベッカ・レビー(Becca Levy)が行った、オハイオ加齢・退職縦断研究の驚異的なデータである。
1975年7月1日までに50歳を迎えた1100人以上の被験者を選出し、長期にわたる詳細な追跡調査が実施された。
「私は去年と同じくらい元気だ」「人は歳をとればとるほど、役に立たなくなる」「歳をとるにつれて、状況は悪くなる一方だ」といった文章に対する同意度を事前に回答してもらい、その後の寿命を調べたのである。
その結果が、ポジティブな層とネガティブな層の間に生じた、約7.5年という恐ろしいほどの生存年数の差である。
加齢に対する単なる心構えの違いだけで、人生において7.5年分もの長さの差が生じてしまうというのは、まさに衝撃的な事実である。
老いを恐れて縮こまるのではなく、経験を重ねて豊かになる過程としてポジティブに生きていくことが、長寿の最大の秘訣だったのだ。
主観年齢の若さがもたらす健康
実年齢にとらわれない心の持ちようも、健康長寿に大きく寄与する。
「若さは気持ちしだい」というのは、もはや決まり文句のようになっているが、実際に、主観年齢が低い人ほど、肉体的にも精神的にも健康でいられる傾向が強いことが、何千人もの被験者を調査した研究でも示されているのだ。(P.283「第10章 若さとは何か 寿命すらも左右する重要なマインドセット」)
社会に蔓延する、ステレオタイプでネガティブな「老い」のイメージに決して囚われないことが、何よりも重要である。
体力の低下といった加齢の現実を冷静に受け入れながらも、心の中では「自分は世間の常識とは違う例外的で若々しい存在である」と強く信じていることが、良い結果をもたらすようだ。
もちろん、定期健診を受けて数値を管理するといった現実的で合理的な対応をしながら、心には常に若々しい炎を燃やし続けるバランス感覚が求められる。
遺伝子の影響は想像以上に小さい
寿命に関する決定論的な思い込みも、最新の研究によって覆されている。
2018年の研究によると、寿命の違いをもたらす要因のうち、遺伝子に起因する部分は、わずか7%に過ぎないことがわかっている。(P.299「第10章 若さとは何か 寿命すらも左右する重要なマインドセット」)
長寿かどうかは遺伝子で決まると思い込んでいる人は多いが、実際に遺伝子に起因する要因はわずか7%程度しかないという事実に驚かされる。
てっきり、もっと30%から40%ほどの高い割合で先天的な遺伝子が寿命を決定づけているのだろうと思っていたら、想像以上にその影響は少ないのだ。
というか、7%の違いであれば、環境や生活習慣で十分にカバーできる、ほぼ誤差くらいの感覚ではないだろうか。
寿命を決める真の要因は、自分自身の精神のあり方や、健康的な食事、適度な運動、そしてあらゆる物事に対するポジティブな姿勢と日々の習慣の蓄積なのである。
この事実を胸に刻み、年齢を言い訳にせず、より楽しく、深い幸福を長く味わい尽くす人生を貪欲に送っていこう。
すべての反応の根底にある信念
本書の終盤では、期待効果の全体像が力強くまとめられている。
手術を受けるとき、健康や体力を維持しようとするとき、長期的なストレスに対処するとき、大変な重圧のもとで働かなければならないとき――どんな状況においても、その状況に対する自分の心理的・生理的な反応を形成しているのは、自分の期待や信念である。(P.304「おわりに ──人生を変える三つの戦略的アドバイス」)
私たちの脳は、過去に蓄積した経験、他者の行動の観察、そして社会的な文化的規範などから、常に未来を予測し続けている。
いかなる状況においても、その時の自分が心の底で抱いている「期待」や「信念」が、すべての反応の根底に存在しているのである。
だからこそ、困難で絶望的に思えるような場合であっても、自分自身の期待や信念を意識的に再評価し、よりポジティブな状態へと軌道修正していくことが極めて大切になる。
そうした絶え間ない内面の努力によってのみ、私たちは望む未来を引き寄せる自己成就的予言を確実に生み出すことができるのだ。
自分と距離を置く魔法の手法
困難な時に冷静さを取り戻すための、具体的なアドバイスも提示されている。
数か月後や数年後の未来から、いま起きている出来事を振り返っているところを想像してみたり、あるいは第三者として自分の体の外から状況の展開を見守っているイメージを持ったりすることもできる。私が個人的に最も役に立つと思うのは、同じ状況に置かれている友人にアドバイスをしているところを想像する、という手法だ。(P.309「おわりに ──人生を変える三つの戦略的アドバイス」)
これは、感情の渦に巻き込まれそうな時に自分自身と意図的に距離を置く、「セルフディスタンシング」という優れた心理的手法の解説である。
不安や怒りによって精神的な負のループに深く陥りそうになった時に、極めて役立つ強力な自己防衛の方法である。
事態が悪化して完全にマイナス思考に支配されてしまう前に、迅速にこの手法を使って対応することが重要となる。
湧き上がる不快な感情をただ無理やり無視して蓋をするのではなく、その感情にはどんなプラスの意味があるのかを、第三者の視点から冷静に再評価してみるのだ。
今の強烈な不安は、将来の大きな成長に向けた爆発的な活力源である、といったような客観的なアドバイスを自分自身に送るのである。
すると不思議なことに、強張っていた筋肉がほぐれ、浅かった呼吸が深くなり、身体反応までもが穏やかに変化してくることに気がつくはずだ。
失敗を許し、成功を盛大に祝う
マインドセットを変えるための実践の心構えは、驚くほど寛容である。
期待効果でどんなことを達成しようとするにしても、オープンな心を保ちながら、さまざまな手法を試し、失敗したら許し、成功したら祝福してほしい。自分には自分を変える力があると思えたら――そして自分の失敗をこころよく許す気持ちがあれば――あなたはきっと予言を自己成就させることができる。(P.312「おわりに ──人生を変える三つの戦略的アドバイス」)
結局のところ、起きている事象に対する解釈の仕方が最大のポイントである。
新しい考え方を試して、もし上手くいかずに失敗してしまったとしても、厳しく自分を責めるのではなく、優しく許してあげればいい。
そして、ほんの小さなことでも成功したならば、大げさなくらいに自分を褒め称え、盛大に祝うのである。
そうやって自分には状況を良くし、自分自身を変えていく確かな力があるのだと強く信じ込むことができれば、必ず道は開ける。
自己成就させるための最大のエネルギーは、この徹底的な自己受容と自己肯定から生まれるのだ。
解釈が運命を切り拓く
最後に、ロブソンは偉大な劇作家の言葉を引用して本書を締めくくる。
シェイクスピアは400年以上も前に、このことを見事に言いえたせりふをハムレットに語らせている。「物事に良いも悪いもない。考え方しだいで良くも悪くもなるのだ」と。それに気づくことができれば、誰もが運命を、自分の手で切りひらくことができるだろう。(P.312「おわりに ──人生を変える三つの戦略的アドバイス」)
歴史に名を残すイギリスの劇作家、ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare、1564~1616年)の言葉は、まさに期待効果の真理を突いている。
起こってしまった客観的な事実に対して、絶対に間違った解釈、つまり自分を不幸にするような解釈をしてはいけない。
少々図々しいくらいに、すべてを自分の都合の良いように、ポジティブに解釈していくしたたかさが必要なのである。
特に過去のつらい出来事については、意味のある試練だったと解釈を変えることで、現在の足枷から解放される。
そして現在と未来についても、常に肯定的で明るい展望を持ちつつも、決して油断せずにしっかりと準備を重ねていく。
そうやって自らの強い信念に基づいて、自分の予言を、自分の期待を、この現実世界に見事に成就させていくのである。
揺るぎない信念を持つことの圧倒的な強さを、私たちはこの本から深く学び取ることができる。
自らの色に人生を染め上げる
本書『BRAIN BOOST(ブレイン・ブースト)』を読み終えた今、期待効果の絶大な影響力がはっきりと理解できたはずだ。
私たちの脳は、思い込み一つで毒を薬に変え、疲労を活力に変え、寿命さえも引き伸ばす驚異的なポテンシャルを秘めている。
この素晴らしい科学の知見をただの読み物として終わらせるのではなく、日々の生活の中で上手く活用していくことが何よりも大切である。
周囲のネガティブな情報や常識に振り回されることなく、これからの人生をもっと自分のものに、自分の好きな色に鮮やかに染め上げていこう。
脳の持つ底知れぬパワーを信じ、もっともっと自分の幸福を貪欲に追求できるような生き方を、今日から始めていこうではないか。
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